「おはよう、ステラ」

いつものように、さわやかな笑顔で挨拶してくるエド。

「ええ、おはようございます。エド」

腕組みして返事をする。
そして両親は扉の陰から何故か隠れて様子を伺っている。

「ステラ……何だかいつもよりその……機嫌悪くないか?」

「何故そう思うのですか?」

「いや、何だか目が笑っていないと言うか……」

「私が機嫌悪そうに見えると言うことは、何か心当たりでもあるのでしょうか?」

「そ、それは……悪かったかな、って思ってるよ」

そこへ、両親が扉の隙間から飛び出してきた。

「何がどう悪かったと言うのです!?」

「エド様、ステラを泣き寝入りさせるおつもりですか!?」

父と母が興奮気味にエドに詰め寄る。

「ええ!? な、泣き寝入りって……ステラ、まさかあのことを話したのか!?」

エドが驚いた様に私を振り返る。

「いいえ、具体的なことは特に話していませんけど?」

「そうだよな……話せるはずは確かに無いよな」

すると私とエドの話をどう勘違いしたのか、増々両親がヒートアップしてくる。

「ふたりとも! 親の見ている前で、なんて話をしているんだ!?」

「ええ、そうですよ! こうなったらエド様に責任を取って貰いましょう」

母がエドに視線を向ける。

「せ、責任……随分大袈裟ですね……」

エドがたじろぎながら首を傾げた。うん、確かに私もそう思うけど……でも、食べ物の恨みは恐ろしいのだと、食い意地の張ったエドに分からせるには丁度良いだろう。

「どうなのだね? エド様。ちゃんと責任を取って貰えるのでしょう?」

エドが王族だと言う事を知らない父は、彼に迫りまくる。

「分かりました、責任を取りましょう」

ついに観念したのか、エドは頷いた。

「よし! 確かに約束しましたからね!? ならこれで一安心だ。ステラや?」

突然父が私に声をかけてきた。

「はい、お父様」

「後のことは我々に任せておきなさい。さ、大学へ行っておいで」

「行ってらっしゃい、ステラ」

父と母が笑顔を向ける。

「は、はぁ……行ってきます」

こうして私はエドと共に、馬車に乗り込んだ――



「エド、それで私から奪ったエコバッグはどうしましたか?」

「あ~……あれかぁ……」

エドは私から視線を逸らす。ま、まさか……。

「エド……まさかとは思いますが、全部食べてしまったわけではありませんよね?」

「ほ、ほら。アレだ。目が覚めたらあの部屋に戻っていたんだよ。そして見るとエコバッグがあるじゃないか。ステラはまだ眠っていたし……アレの中身を誰かに見られたらまずいだろうと思って、持ち帰ったんだ。それで少しだけ味見をしてみたら‥‥‥その、手が止まらなくなって……」

段々、エドの声が小さくなっていく。

「まさか全て食べ尽くしてしまったんですか!?」

「すまない!」

私の怒りの声と、エドの謝罪の言葉が同時に重なる。

「酷いじゃないですか! 貴重なお菓子を……! もう一度食べたら補充されないのに!」

「本当に悪かったと思ってるよ! だから、責任は取るってステラの両親に誓っただろう?」

「責任……本当にとってもらえるのでしょうね?」

「勿論。俺に出来る事なら何でも言ってくれ」

コクコク頷くエド。

「なら、次の復讐に手を貸して貰いますからね?」

「分かったよ。それで俺は何をすればいい?」

「では、カレンとデートの約束を取り付けて下さい」

「は……? デート……? デートだって!?」

エドが半分悲鳴交じりの声を上げた――