「う〜ん……ま、眩しい……」

瞼の奥で光でも当たっているのか眩しくて仕方ない。

「なんなのよ……」

眩しい光から顔を背けるためにゴロリと身体の向きを変えた時、一気に自分の脳が覚醒した。
確か昨夜はエドと一緒にベッドに寝て、向こうの世界で目覚めてそれから……。

「そ、そうだった!」

ガバッとベッドから起き上がると、肝心のエドの姿が何処にもない。それどころがエコバッグすら見当たらない。

「エドッ! エドッ!」

大声で呼んでも返事すら無い。

「そ、そんな……まさか……あの世界に置いてきてしまった……?」

全身から血の気が引く。
ひょっとして眠っている途中、エドの手をうっかり離してしまったのだろうか?
それでエドはたった1人、あんな狭い狭いと訴えていた部屋に1人残されて……?

『俺だったらきっと発狂していたに違いない』

エドの言葉が脳裏でリフレインする。

「ど、どうしようーっ!!」

気付けば頭を抱えて、天井を向いて叫んでいた。
仮にも相手は王子様。王位継承権がない第6王子だとはいっても、王族に違いない。

「もし、私のせいでエドの頭が発狂してしまったら……?」

不敬罪に問われて牢屋に入れられてしまうかも知れない。

「た、た、大変!! 一刻も早く眠って……哀れなエドを救いに行かないと!」

再びベッドにゴロリと横になって、目を閉じるも一向に眠くなる気配はない。
やはり、いくら私でもこんな切羽詰まった状況では眠れるはずもなかった。

「うう……眠れない……」

そのとき――

「何事ですか!? ステラお嬢様!」

客室係のメイドが駆けつけてきた。

「あ……ど、どうしよう……エドが……エドがぁっ!」

状況を説明するわけにもいかず、とりあえず心の声をそのまま口に出す私。

「エドガア? エド様のことをおっしゃっているのですか?」

「そうだけど……」

もう心臓が激しく脈打ち、痛いくらいだ。こんなに落ち着かない気持ちになるのはこの世界に来て初めての経験だ。

「エド様なら……30分ほど前にお帰りになられました。また後ほどステラ様のお迎えに来ると伝言を承っております」

「ええっ!? か、帰った!?」

「は、はい……」

そのとき、嫌な予感が脳裏を横切る。

「ま、まさか……エコバッグを手にしていなかった?」

「エコバッグ……? 確かにバッグを大事そうに抱えておりました。それに何だかとても嬉しそうでした」

「や、やられた……」

この時、やっと気付いた。
私より先に目覚めたエドは、こっちがまだ眠っているのをいいことにエコバッグを持ち帰ったのだ。……独り占めするために。

「な、なんて男なの……!」

相手は王子。けれど、貴重な私の食糧を持ち去ってしまうとは……。

「あ、あの〜……ステラ様?」

「フッフッフッ……いいわ、エド。私の大切な物を勝手に奪った責任……必ず取ってもらおうじゃないの!」

こうなったらエドを巻き込んで、カレン及び残りの取り巻き3人に対する仕返しに協力させるのだ。

「まさか……! そ、そんな! ステラ様が……!」

すると何故か私の言葉に真っ青になるメイド。そして、そのまま脱兎のごとく走り去っていった。

「何? 今の……? まぁいいわ。 見ていなさいよ、ステラを『死にたい』とまで思わせた責任を取ってもらうんだから……」

ポケットから惚れ薬を取り出すと、強く握りしめた――