「……ステラ! ステラ!」

う〜ん……誰かが呼んでいる気がする……。

「ステラッ! 頼むから起きてくれ!」

突然ユサユサと大きく揺れる。

「じ、地震っ!?」

驚いてガバッと起き上がると、目の前に随分狼狽えているエドがいた。

「よ、良かった……目が覚めてくれて……」

「一体何を騒いでいるんです………? あ! ここは!」

そう。ここはいつもの私の部屋だったのだ。やっぱり私の考えは間違えていなかったのだ。
眠りに就くと、どういう理屈になっているのかは不明だが、元の部屋に転移してこれる能力が身についているらしい。

「やった! 私の想像通りだった! しかも人の移送まで出来るなんて!」

人の移送……それは紛れもなく、エドのことだ。

「ステラ、さっきから何を言っているのか分からないが……ここは一体どこなんだ? こんなに狭い部屋は初めてだ。俺の部屋のクローゼットよりも狭い。あまりに狭すぎて息が詰まりそうになってくる。何故俺達はこんなに狭い部屋で目覚めたんだ?」

先程から「狭い」と連呼するエド。

「エド、ちょっと落ち着いて下さい」

「いいや、こんな狭い部屋では落ち着けない。初めてこの部屋で目覚めた時は狭さにパニックを起こしたくらいなんだ。ステラ、早くこの狭すぎる部屋から出よう!」

「あ〜!! また狭いって言いましたね!? 今で10回くらい狭いって言いましたよ!?」

「いいや、そんなに言っていない。狭いと言ったのは7回だ」

「あ! また狭いって言ったじゃないですか! ほぼ10回言ってますよ!」

確かに本物のステラや、エドから見ればこの部屋は極小ワンルームマンションかもしれない。けれど広さは一応8畳あるし、私の城だったのだ。

「駄目だ。あまりの狭さに考えもまとまらない。ステラッ! とにかく一旦外に出よう! 広いところに出れば気持ちも落ち着けるはずだ!」

そしてエドは玄関へ向かいドアノブを回し……。

「……あれ? おかしいな……全くノブが回らない。これじゃ出られないぞ!」

「ええ、そうですよ。何故かこの部屋から外には一歩も出られないのです」

「な、何だって!? 本当なのか!?」

「それに、もし仮に外に出た場合……タダでは済まない」

「タ、タダではすまない……?」

エドがゴクリと息を呑む。

「かもしれません」

「……は? 何だ? それ」

「百聞は一見にしかず、です。ひょっとしてエドは窓の外を見ていないのですか?」

「窓の外って……ええっ!! い、一体これは何だ!?」

エドは窓に駆け寄り、呆然とした顔で外? を見つめる。

「何だ……? この空間は……真っ白で何も無いぞ……」

「ええ、そうです。何にも無い『無』の世界です。これで理解できたでしょう? もし仮に外に出たら、タダではすまないかもしれませんと言った理由が」

「そ、そうだな……。だったら、どうやってこの世界から抜け出すつもりなんだ!?」

「落ち着いて下さい、どうやってこの世界に来たのか覚えていますか?」

「勿論だ。俺達、一緒のベッドの上で寝たよな? 手を繋ぎ合って」

「ええ。そうです。つまり、私が眠りに就くと何故かこの世界に転移してしまうようなのです。ちなみに、この部屋は私が日本人だった頃に住んでいた部屋です」

するとエドが目を見開いた。

「な、何だって……? そ、それじゃ……こんな狭い部屋に住んでいたっていうのか!?」

エドは、再び「狭い」という言葉を口にするのだった――