夕食の席――

エドと両親が私をそっちのけで、楽しげに会話をしている。

「いやはや。本当に美味しそうに食事をされるのですな。見ているこちらが気持ちよくいなるほどです」

父がワインを飲みながらエドに話しかけ、エドは笑顔で答える。

「ええ。何しろ私の一番の生きがいは、この世の美味しい料理を食べ尽くすことですから」

え!? そうだったの!? だから、あんなに食べ物に執着していたのだろうか?
それにしても、仮にも彼は王子だというのに一番の生きがいが美味しい料理を食べ尽くすことだなんて……。
あまりにもスケールが小さすぎるのではないだろうか?

けれど、王位継承権から外れた第6王子だと、夢や野望も潰えてしまうのかもしれない。

「まぁ、なかなか面白いことを言ってくれますね」

ホホホと笑う母。

父も母もエドの正体を知らない。
彼が実は王子(ただし6番目)だと知れば仰天するだろう。……ちなみにエドが王子であることを両親に説明していないのは、彼の頼みだったからだ。

エド曰く、「気を使わせたくないから」というのが理由だった。

「それで……? エド君。娘とは……どのような関係なのですかな?」

父が意味深な質問をする。

「はい、私とステラは……」

「親しい友人です! そうですよね? エド!?」

エドがおかしな発言をする前に、封じておかなければ!

「まぁ、そうだったのね……てっきり私ったら、2人は友人以上の関係だと思っていたのだけど」

母がちらりとエドを見る。

「ええ、俺もそうなることを……」

「あ! エド、もう食事は終わったようですね! そ、それでは今夜は泊まっていかれるのですよね? 今、客室を案内しましょう! 失礼します、お父様。お母様」

「え? 俺はまだ食事は……」

エドが何か言いかけるも、私は彼の腕を掴んで立ち上がらせると逃げるようにダイニングルームから連れ出した。


「ステラ、何で連れ出すんだよ。まだ食事が終わっていなかったのに」

私の後ろを歩きながら、エドが不満そうに声をかけてくる。

「そんなの当然じゃないですか。エド、両親に変なことを告げようとしたでしょう?」

「変なことって何だ?」

ニヤニヤしながら尋ねてくるエド。
うっ……こんな顔をしても、やっぱり彼はイケメンだ。

「もう、そんな話は結構です。はい、部屋の前に到着しました」

エドを客室まで案内すると、部屋の扉を開けた。

「へぇ〜なかなか良い部屋じゃないか」

エドは中に入ると、満足そうに部屋の中を見渡す。

「そうですか、気に入って頂けて結構です。それでは私はこれで失礼します」

ペコリと頭を下げて部屋を出ていこうとすると、突然エドに腕を掴まれた。

「え? ステラ。何処へ行くんだよ?」

「何処って……自分の部屋ですよ?」

「え!? 自分の部屋? 何で? 俺と一緒に寝るんじゃなかったのか?」

エドの声が思った以上に大きく廊下に響き渡る。

「ちょ、ちょっとエド! 不用意に大きな声をあげないで下さいよ! 父と母に知られたらどうするんですか!」

声のトーンを抑えてエドに注意する。

「だけど、何か訳ありで俺と一緒に寝たいんだろう?」

「ええ。そうです。ちょっと確認したいことがあるので……それでは、23時頃訪ねますので起きて待っていてくださいね?」

「ああ! 当然起きて待っているさ!」

やけに張り切って頷くエド。

「え? ええ。お願いしますね。それではまた後ほど伺いますね」

エドと約束を交わすと、私は足早に部屋へと戻った――