「またお会いしましたね? エイドリアン、それにロンド伯爵」

声をかけながらエドと共に応接室に入るも、2人は無反応だった。……というか、鏡に映る自分に、見惚れているのだ。

う……なかなか気持ちの悪い光景だ。

「ステラ。あの2人、声をかけられたことに気付いていないんじゃないのか?」

エドが耳打ちしてくる。

「ええ、そうみたいですね。ならこちらに気を向けさせましょう」

そこで私は大きく手を叩きながら声をかけた。

パンパンッ!

「はい! お二方、こちらに注目して下さい!!」

「ん……?」
「何だ?」

すると、エイドリアンとロンド伯爵が呆けた顔でコチラを見る。

「……何だ。ステラか。悪いが、俺はもうお前に何の興味もないから放っておいてくれ」

「ええ。そうですとも。息子の言うとおりです。どうか我々に構わないでいただきたい」

そして2人は再び鏡の方を振り向くと、鳥肌の立つようなセリフを口にする。

「知らなかった……俺って、こんなに素敵な男だったのか……? 見れば見るほど惚れ惚れする……もう、一生自分以外は好きになれそうにないな……」

「ああ。私もこの年になって、自分の魅力に気づくとは思わなかった……世の中にこれほど美しい男が存在していたのか……? 愛しているよ、私」

「お、おい……あの2人、気色悪くないか……?」

エドが私に話しかけてくる。

「ええ。私もそう思います。気が合いますね。でも……多分、あの2人はもう一生自分しか愛せないでしょうね。それこそ、私のように『魂の交換』でも行われない限りは」

「ああ。俺もそう思う」

腕組みして頷くエド。けれど、これでこの2人に対する復讐は終わった。なので、さっさとお帰りいただこう。

「あの、もうお帰り頂けますか?」

「何だと? ステラ。お前が俺と父を呼び出したんだろう?」

「ええ。そうですよ。まだ何も用件は伺っておりません。よって帰りません」

2人はうっとりした目つきで鏡から目を離さずに返事をする。

ええっ!? こんなイカれてしまった2人に居座られたりしたら、たまったものじゃない!

「ステラ、この2人。鏡の前から離れたくなくて、帰ろうとしないんじゃないか?」

「冗談じゃありません! 早く帰ってくださいよ!」

「「イヤだ!! 絶対に帰るものか!!」」

鏡を見ながら声を揃える2人の親子。

「ええええっ!!」

なんてことだろう。まさかこんなことになるとは思わなかった。

「どうするんだ? ステラ?」

エドは何がおかしいのか、ニヤニヤしながら尋ねてくる。

うう……人ごとだと思って……。
……きっと、この状況を楽しんでいるに違いない。

「こ、こうなったら……もう最終手段よ!!」

あるものを取りに、応接室を出ようとした私にエドが慌ててついてくる。

「ステラ? 一体どうするつもりなんだ?」

「あの2人に帰ってもらうために、プレゼントをあげます」

「プレゼント?」

「はい。今、一番あの2人が喜ぶものですよ」


その後。

エイドリアンとロンド伯爵は手鏡を見つめながら、うっとりした顔つきで帰っていった。

「なかなか……シュールな光景だな」

「ええ、シュールな光景ですね」

私は笑顔で頷くのだった――