「ふわぁぁあ〜……」
朝食の席で、両親を前に大欠伸をしてしまった。
「どうしたのだ、ステラ。もしかして寝不足なのか?」
フォークを動かしながら父が尋ねてくる。
「え、ええ……少しばかり。最近夢見が悪いので」
夢見と言うか……寝た気がしない。何しろあんなにくっきりはっきりとしたリアルな世界なのだから。どちらが現実か分からなくなるくらいだ。
もしや明晰夢というものではないだろうか?
「エイドリアンの夢でも見ているのかしら?」
母が眉を顰める。
「まさか! そんなはずありませんよ! それに今朝は少し早起きしたものですから眠いだけです」
「そう言えば、何か厨房で作っていたようだな?」
「はい、お父様。昼食を作っていました。最近料理に目覚めたんです」
「そうだったのね? 一体何を作っていたのかしら?」
「小麦粉の料理です。たいしたものではありませんよ」
母に笑顔でごまかす。
両親には何を作っていたかは絶対に内緒だ。もしあの料理を見られれば、又医者を呼ぶ騒ぎになってしまうかもしれない。
「本当にステラはあの日から別人のようになったな」
「ええ、昔のように素直になったわね。やっぱり悪女の原因はロンド家だったのね」
父と母の会話の内容で分かった。
昔のステラは素直で多分良い子だったのだろう。
それがロンド家に騙されて妙な薬を盛られてしまった。そのせいでステラはエイドリアンに惚れた挙げ句、周囲から嫌われる性格になってしまった……に違いない。
改めてロンド家に対し、怒りが込み上げてくる。そこで私は父に声をかけた。
「お父様」
「何だ? ステラ」
「今日、必ずロンド伯爵とエイドリアンを我が家に招いてくださいね」
2人をこの屋敷に招き……私のとっておきの復讐をしてやるのだから。
「勿論だよ、可愛いステラの為に必ずあの2人を呼びつけよう」
「ふふ。 ステラが何をしようと止めないからね?」
「ありがとうございます、お父様。お母様」
私は笑顔で両親にお礼を述べた――
****
――8時
今朝もアボット家に黒塗りの馬車が到着していた。
「おはよう、ステラ。ごきげんな朝……でも無さそうだな。何だか朝から疲れ切っていないか?」
相変わらず無駄にイケメンのエドが扉を開けて出てきた私を出迎え、首を傾げる。
「……おはようございます。ええ、そうなんです。疲れているんですよ……最近よく眠れなくて」
いや、多分眠れているのだろうけど寝た気がしない。だから疲れも取れないのだろう。
「まさか……エイドリアンが夢に出てきたのか?」
「違います。ただ夢見が良くないだけですよ」
何故エドも父と同じようなことを尋ねてくるのだろう?
「そうか。まぁいい、それじゃ大学に向かおうか?」
エドが私に手を差し伸べてきた。
「それで、ステラ。今日はどんなオベントウを作ってきてくれたんだ?」
馬車が走り出すと、早速エドが尋ねてきた。
「えぇ……お米がもう無くなってしまいましたからね……代わりに今日はお好み焼きを作ってみました」
「え? オコノミ……ヤキ……?」
「まぁ、口で説明するよりは……見たほうが早いですよね」
私は持っていた手提げバッグからタッパ(自分の部屋から持参してきた)を取り出すと蓋を開けた。
「う! な、何だ……この食べ物は……本当にこれ、食べ物なのか?」
エドが顔をしかめる。
まぁ、確かに王子様であるエドにとっては謎の食べ物に見えるだろう。
だがしかし、私はお米の次にと言っていいくらいお好み焼きが大好きだった。
学生時代はよく友人を招いてお好み焼きパーティーをしていたくらいで、「焼き」にはちょっと自信がある。
「上に乗っている黒いのは私が作った特製ソースです。ちなみにこの緑の物体は『青のり』と言って、香りが良いのですよ。そして仕上げがこれです」
更に袋からあるものを取り出して、エドに差し出すと彼は首を傾げる。
「ん? 奇妙な容器に入ってるな……まるで絞り袋みたいだ。ステラ、これは一体なんだい?」
「フッフッフッ……これはまるで魔法のような調味料なのですよ。これをかけるだけで普通の料理がワンランク、美味しくなるのです。ズバリ……マヨネーズです!!」
「マ……ヨネーズ……?」
「はい、このマヨネーズをお好み焼きにかければ更に美味しさ倍増です……って何ですか? その露骨にいやそ〜な顔は……」
「い、いや。別に嫌だとは言っていないさ。ただ……見た目が……その……」
「ならいいですよ! この食事は私のものですから!」
折角人が5時起きで用意したというのに……。唇を尖らせてタッパをしまおうとするとエドが慌てたように謝ってきた。
「あ、ごめん! ステラ、そんな悪気は無かったんだよ。だから怒らないでくれよ……ん? これは何だい?」
エドが床に落ちていたものを拾い上げた。
「え? あ! そ、それは!」
それは小分けした袋に入った海苔せんべいだった。おやつに食べようとバッグの中に入れておいたのだが、マヨを取り出した時に一緒に落ちてしまったようだ。
「海苔せんべい……? 美味しそうだな……俺のために用意してくれたんだな?」
エドが嬉しそうに笑う。
「美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから! 返してくださいって……あ! 言ってる側から食べないでくださいよぉ!」
「うん、美味しい。この歯ごたえ……最高だ」
あろうことか、エドはその場でバリバリと美味しそうな音を立てて食べ始めてしまった。
「だから、食べないでって言ってるじゃないですか〜!!」
馬車の中に、虚しく私の叫び声が響き渡るのだった――
朝食の席で、両親を前に大欠伸をしてしまった。
「どうしたのだ、ステラ。もしかして寝不足なのか?」
フォークを動かしながら父が尋ねてくる。
「え、ええ……少しばかり。最近夢見が悪いので」
夢見と言うか……寝た気がしない。何しろあんなにくっきりはっきりとしたリアルな世界なのだから。どちらが現実か分からなくなるくらいだ。
もしや明晰夢というものではないだろうか?
「エイドリアンの夢でも見ているのかしら?」
母が眉を顰める。
「まさか! そんなはずありませんよ! それに今朝は少し早起きしたものですから眠いだけです」
「そう言えば、何か厨房で作っていたようだな?」
「はい、お父様。昼食を作っていました。最近料理に目覚めたんです」
「そうだったのね? 一体何を作っていたのかしら?」
「小麦粉の料理です。たいしたものではありませんよ」
母に笑顔でごまかす。
両親には何を作っていたかは絶対に内緒だ。もしあの料理を見られれば、又医者を呼ぶ騒ぎになってしまうかもしれない。
「本当にステラはあの日から別人のようになったな」
「ええ、昔のように素直になったわね。やっぱり悪女の原因はロンド家だったのね」
父と母の会話の内容で分かった。
昔のステラは素直で多分良い子だったのだろう。
それがロンド家に騙されて妙な薬を盛られてしまった。そのせいでステラはエイドリアンに惚れた挙げ句、周囲から嫌われる性格になってしまった……に違いない。
改めてロンド家に対し、怒りが込み上げてくる。そこで私は父に声をかけた。
「お父様」
「何だ? ステラ」
「今日、必ずロンド伯爵とエイドリアンを我が家に招いてくださいね」
2人をこの屋敷に招き……私のとっておきの復讐をしてやるのだから。
「勿論だよ、可愛いステラの為に必ずあの2人を呼びつけよう」
「ふふ。 ステラが何をしようと止めないからね?」
「ありがとうございます、お父様。お母様」
私は笑顔で両親にお礼を述べた――
****
――8時
今朝もアボット家に黒塗りの馬車が到着していた。
「おはよう、ステラ。ごきげんな朝……でも無さそうだな。何だか朝から疲れ切っていないか?」
相変わらず無駄にイケメンのエドが扉を開けて出てきた私を出迎え、首を傾げる。
「……おはようございます。ええ、そうなんです。疲れているんですよ……最近よく眠れなくて」
いや、多分眠れているのだろうけど寝た気がしない。だから疲れも取れないのだろう。
「まさか……エイドリアンが夢に出てきたのか?」
「違います。ただ夢見が良くないだけですよ」
何故エドも父と同じようなことを尋ねてくるのだろう?
「そうか。まぁいい、それじゃ大学に向かおうか?」
エドが私に手を差し伸べてきた。
「それで、ステラ。今日はどんなオベントウを作ってきてくれたんだ?」
馬車が走り出すと、早速エドが尋ねてきた。
「えぇ……お米がもう無くなってしまいましたからね……代わりに今日はお好み焼きを作ってみました」
「え? オコノミ……ヤキ……?」
「まぁ、口で説明するよりは……見たほうが早いですよね」
私は持っていた手提げバッグからタッパ(自分の部屋から持参してきた)を取り出すと蓋を開けた。
「う! な、何だ……この食べ物は……本当にこれ、食べ物なのか?」
エドが顔をしかめる。
まぁ、確かに王子様であるエドにとっては謎の食べ物に見えるだろう。
だがしかし、私はお米の次にと言っていいくらいお好み焼きが大好きだった。
学生時代はよく友人を招いてお好み焼きパーティーをしていたくらいで、「焼き」にはちょっと自信がある。
「上に乗っている黒いのは私が作った特製ソースです。ちなみにこの緑の物体は『青のり』と言って、香りが良いのですよ。そして仕上げがこれです」
更に袋からあるものを取り出して、エドに差し出すと彼は首を傾げる。
「ん? 奇妙な容器に入ってるな……まるで絞り袋みたいだ。ステラ、これは一体なんだい?」
「フッフッフッ……これはまるで魔法のような調味料なのですよ。これをかけるだけで普通の料理がワンランク、美味しくなるのです。ズバリ……マヨネーズです!!」
「マ……ヨネーズ……?」
「はい、このマヨネーズをお好み焼きにかければ更に美味しさ倍増です……って何ですか? その露骨にいやそ〜な顔は……」
「い、いや。別に嫌だとは言っていないさ。ただ……見た目が……その……」
「ならいいですよ! この食事は私のものですから!」
折角人が5時起きで用意したというのに……。唇を尖らせてタッパをしまおうとするとエドが慌てたように謝ってきた。
「あ、ごめん! ステラ、そんな悪気は無かったんだよ。だから怒らないでくれよ……ん? これは何だい?」
エドが床に落ちていたものを拾い上げた。
「え? あ! そ、それは!」
それは小分けした袋に入った海苔せんべいだった。おやつに食べようとバッグの中に入れておいたのだが、マヨを取り出した時に一緒に落ちてしまったようだ。
「海苔せんべい……? 美味しそうだな……俺のために用意してくれたんだな?」
エドが嬉しそうに笑う。
「美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから! 返してくださいって……あ! 言ってる側から食べないでくださいよぉ!」
「うん、美味しい。この歯ごたえ……最高だ」
あろうことか、エドはその場でバリバリと美味しそうな音を立てて食べ始めてしまった。
「だから、食べないでって言ってるじゃないですか〜!!」
馬車の中に、虚しく私の叫び声が響き渡るのだった――