「なるほど、そういうことね……」

魔女はニヤリと笑った。
う……さすがは魔女だ。子供の姿をしているのに、その表情……まるで大人にしか見えない。

「お嬢さん、もしかしてエイドリアンという人物に惚れ薬を飲まされたんじゃないの? 2人はどんな関係なのかしら?」

「……元婚約者です。しかも子供の頃からの……両親の話では、私が一方的に一目惚れしたらしいですが……」

嘘だ、あんな平凡な(しかも元彼に外見が良く似た)男にステラが一目惚れしたとは思えない。
しかも、あれほど蔑ろにされていたのに?

「なら、恐らく子供の頃に惚れ薬を飲まされたんじゃないかしら? 何しろ、この薬のすごいところは無味無臭。どんな料理や飲み物に混ぜても味・香りが損なわれない優れものよ!?」

自分の薬の出来を自慢する魔女。

「何だって、そんな危険な薬を作り出すんですか! お陰でこっちは大迷惑ですよ!」

「ちょっと落ち着きなさいよ!! だ、だけど子供の頃に飲まされた惚れ薬を作ったのは私じゃないわよ! だって、ここに流れ着いたのは5年ほど前なのよ!? それまでは、ここから千km程離れた場所に住んでいたんだから!」

「なら、その魔女が全ての現況ですね……」

怒りで身体が震えてくる。

「まぁ、そうなるわね。で、その後継続して私の作った惚れ薬を飲ませていたんでしょう。それで、すっかりステラはそのエイドリアンとかいう人物に惚れ込んでしまったんでしょうね。例えどんなに邪険にされようが」

「で、でも……一体何のためにエイドリアンは……」

そこまで口にしかけて、気付いた。
そうだ、ロンド家はアボット家の下請け会社を経営している。そこでエイドリアンの父親は私と息子を結びつけようと……。

「それにしても、何処の魔女か知らないけれど……子供に惚れ薬を売るなんて。魔女の規則で15歳未満の子供には惚れ薬を売ってはいけないと決められているのに」

「フッフッフッ……そんな規則なんてどうでもいいんですよ……」

口元に笑みを浮かべながら、私はアボット伯爵の顔を思い出していた。

「な、何!? ついに頭がおかしくなってしまったのかしら!?」

魔女がビクビクしながら私を見つめる。

「いいえ、至って正気ですよ。誰があのロクデナシ男に惚れ薬を手渡したか、分かってしまったからです」

おのれ……あのハゲ親父め……! 自分の欲のために息子をダシに使って、この私に惚れ薬を盛らせるとは……!

「魔女さん!」

「な、何よ?」

「あなたのお陰で、命拾いしました! 本当にありがとうございました」

「そ、そう? そんなに対して役に立てたとは思えないけど」

「いいえ、そんなことありません! 多いに役にたっていただけました!」

エイドリアンがあの時私に『覚えていろよ』と言ったのは、きっと新たな惚れ薬を私に飲ませて服従させるつもりだったに違いない。
もしかすると、カレンに惚れ薬の話をしたのも彼の可能性がある。だから、2人は大量に惚れ薬を買ったのだ。

もしかすると……カレンの次のターゲットは……?

そこまで考え、自分の顔から血の気が引いていく。

「そうだ……エド……」

「何? どうかしたの?」

「エド!」

「ちょっと! 何処へ行くのよ!」

魔女の静止も聞かず、扉へ向かって駆け出した。 

外で待っているエドのもとへ行くために――