「それにしてもよく私が惚れ薬を飲まされていることが分かりましたね?」

「そんなのは当然よ。何しろ私の魔力を注ぎ込んで作られている薬なんだから」

私の質問に魔女は腕組みすると頷き、次に深刻な顔で尋ねてきた。

「それどころかあなた……一体どれ程の薬を飲まされてきたのよ? 他にも何種類か薬を飲まされているじゃない。しかも相当長い間。……恐らく10年以上飲まされてきたわね?」

「「ええ!? 10年以上!?」」

私とエドの声がハモる。

「どういうことなんだ!? 一体誰がステラに何種類もの薬を10年以上も飲ませてきたんだ!? いや、それどころか何故そんな怪しい薬を堂々と売っているんだよ!」

エド私の代わりに興奮気味に魔女に抗議する。

「な、何よ! 確かに怪しい薬かもしれないけれど、自己責任なのよ! 自己責任! 私は薬をただ作っただけ、何も悪いことなんてしていないもの!」

おおっ! この魔女……開き直った! って感心している場合ではない。
この私(ステラ)が10年以上も怪しげな薬を飲まされ続けてきたとは穏やかな話ではない。

「誰ですか!? 一体誰が私に薬を飲ませてきたのですか!?」

気付けば思わず魔女の胸ぐらを掴んでいた。

「く、苦し……」

「落ち着けステラ! 俺が代わりにやろう!」

「はぁ!? な、何言ってる……のよ……こ、ここは……止めるところでしょう……? と、とにかく離しなさいよ!」

私は魔女の胸ぐらから手を離すと、改めて尋ねた。

「では、もう一度尋ねます。誰が私に薬を飲ませたのですか?」

「何言ってるのよ。そんなの私が知るはず無いでしょう? それよりも自分で心当たり無いの? 誰かから怪しいものを貰って、目の前で口にした記憶はないの? 惚れ薬っていうのはね、自分に惚れさせる相手に目の前で飲んでもらうのよ。いわゆる刷り込みってやつね」

「す、刷り込みって……私は鳥類じゃないです! 何ですか? それじゃ私は誰かに渡された惚れ薬をその場で飲んだってことですか!?」

「ええ、そうよ。覚えていないの?」

じっと私を見つめる魔女。

「だ、だから私は今記憶喪失で……」

すると――

「ステラ!! 君の一生に関わることだ! さぁ! 今すぐ思い出せ! 思い出すんだ! 頼むから思い出してくれ!!」

エドが私の肩を掴んでガクガク揺さぶる。

「お、落ち着いて下さい!! こんなんじゃ、思い出したくても思い出せませんってば!」

「た、確かにそうだな……」

我に返ったかのように、私から手を離すエド。それにしても、何だって彼がこんなにうろたえるのだろう?
私達の様子を呆れた目で見つめていた魔女が尋ねてきた。

「何? お嬢さん、記憶喪失になっているの?」

「は、はぁ……そんな感じです」

「ふ〜ん……そうなのね……。なるほど……。ところで、そこの若者」

不意に魔女がエドに声をかけた。

 「何ですか?」

「女同士2人だけで話がしたいから、少しだけ外に出ていてもらえないかしら?」

「……分かりました。では外で待っています。また後でな、ステラ」

エドは素直に返事をすると、店を出ていった。


――パタン

店の扉が閉じられると、魔女は私の方を向き直った。

「あなた……一体何者なの? その身体、ひょっとして自分の物じゃないでしょう?」

「え?」

「薬を飲まされた記憶が無いのも、それが原因でしょう? あなたの秘密を教えなさいよ。私なら何か力になってあげられるかもしれないわよ?」

そして魔女はにっこりと微笑んだ――