「それじゃ、行こうか。ステラ」
エドは馬車の前で私に手を差し伸べてきた。
「え? 行くってどこへ?」
するとエドが大げさな素振りでため息をつく。
「おいおい、ステラ。しっかりしてくれよ。記憶喪失どころか健忘症になってしまったんじゃないか?」
「誰が健忘症ですか? 今日は色々あって、頭の中がいっぱいなんですよ。授業の内容だってちんぷんかんぷんだったし……」
「それは健忘症以前の問題だな……」
「だから、こんなに何もかも分からないのは記憶喪失のせいですってば」
本当は記憶喪失ではない、私はこの世界の人間ではないのだから。
けれど、エドに本当のことを告げる気は……絶対に無い!
「まぁいい。早く行こう、チーズケーキを食べに行くんだろう?」
「はぁ……でも、そんなに食欲も無いんですけど……」
大体、エドと一緒にいる姿を女子学生たちに見られでもしたらタダでは済まない気がする。
特にカレンとか……。今日は何度も彼女と取り巻きたちに睨みつけられて授業に集中など出来るはずもなかったし。
「ケーキの帰りに魔女の店に行こう」
「行きます!」
魔女の店に行くのなら話は別だ。
「そうか、ステラはそんなに俺とのデートが楽しみなんだな。可愛いところがあるじゃないか?」
そして頭を撫でてくるエド。魔女に会えるなら、もうどうでもいいか。
「はい、そうです。早く行きましょう!」
こうして私とエドは馬車に乗って、チーズケーキが美味しいと評判の店へ向かった。
****
「どうだ? ステラ、美味しいかい?」
エドが頬杖をついて尋ねてきた。
「はい、エドの言うとおりですね。とても美味しいです」
このチーズケーキは本当に美味しかった。やはり高級なケーキは味も絶品だ。
「エドは食べないんですか?」
彼は先程からコーヒーしか飲んでいない。
「まぁね、甘いものは苦手だから。……やっぱり俺の口にはステラが持ってきてくれたオベントウの味があってるみたいだ。だからさ、オニギリは諦める。他に違う食べ物を待ってるよ」
本当ならここで断りたいところだが、これから彼には魔女の店に連れて行ってもらうのだ。
「ええ、いいですよ。今度はアッと驚く食べ物を持ってきてあげます」
「本当か!? 嬉しいな〜楽しみにしているよ」
ニコニコ笑うエド。
うっ! 笑顔が眩しすぎる。
思わず顔が赤らみそうになり……バレないように俯きながらケーキを口にした――
****
「ここが魔女の店さ」
「こ、ここがですか……?」
エドに連れて来られた店は先程ケーキを食べた店の数件隣に建っていた。
「ああ、そうさ」
目の前に建っている店はどうみても魔女の店には見えなかった。真っ白な壁に赤い屋根。店の前には立て看板があり、堂々と『魔女の雑貨店』と書かれている。
「こ、こんな目立つ店が……もっと、魔女の店というと森の中にひっそり佇んでいるものじゃないですか? こう……人の目にあまり触れないような場所に」
「まぁ、魔女によりけりかもな。でも、『魔女の雑貨店』と書かれているくらいだから、本物の店なんじゃないか? 何しろ俺もここに来るのは初めてだからな」
エドはポケットから、手帳らしきものを取り出した。
「その手にしているものは何ですか?」
「これ? 魔女の組合名簿だよ」
「え! そんなもの持っていたのですか!? どうしてさっき教えてくれなかったんですか!」
「それはステラに俺の存在価値を分かってもらいたかったからさ。それじゃ中に入ろうか?」
エドは笑顔で店の扉を開けた――
エドは馬車の前で私に手を差し伸べてきた。
「え? 行くってどこへ?」
するとエドが大げさな素振りでため息をつく。
「おいおい、ステラ。しっかりしてくれよ。記憶喪失どころか健忘症になってしまったんじゃないか?」
「誰が健忘症ですか? 今日は色々あって、頭の中がいっぱいなんですよ。授業の内容だってちんぷんかんぷんだったし……」
「それは健忘症以前の問題だな……」
「だから、こんなに何もかも分からないのは記憶喪失のせいですってば」
本当は記憶喪失ではない、私はこの世界の人間ではないのだから。
けれど、エドに本当のことを告げる気は……絶対に無い!
「まぁいい。早く行こう、チーズケーキを食べに行くんだろう?」
「はぁ……でも、そんなに食欲も無いんですけど……」
大体、エドと一緒にいる姿を女子学生たちに見られでもしたらタダでは済まない気がする。
特にカレンとか……。今日は何度も彼女と取り巻きたちに睨みつけられて授業に集中など出来るはずもなかったし。
「ケーキの帰りに魔女の店に行こう」
「行きます!」
魔女の店に行くのなら話は別だ。
「そうか、ステラはそんなに俺とのデートが楽しみなんだな。可愛いところがあるじゃないか?」
そして頭を撫でてくるエド。魔女に会えるなら、もうどうでもいいか。
「はい、そうです。早く行きましょう!」
こうして私とエドは馬車に乗って、チーズケーキが美味しいと評判の店へ向かった。
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「どうだ? ステラ、美味しいかい?」
エドが頬杖をついて尋ねてきた。
「はい、エドの言うとおりですね。とても美味しいです」
このチーズケーキは本当に美味しかった。やはり高級なケーキは味も絶品だ。
「エドは食べないんですか?」
彼は先程からコーヒーしか飲んでいない。
「まぁね、甘いものは苦手だから。……やっぱり俺の口にはステラが持ってきてくれたオベントウの味があってるみたいだ。だからさ、オニギリは諦める。他に違う食べ物を待ってるよ」
本当ならここで断りたいところだが、これから彼には魔女の店に連れて行ってもらうのだ。
「ええ、いいですよ。今度はアッと驚く食べ物を持ってきてあげます」
「本当か!? 嬉しいな〜楽しみにしているよ」
ニコニコ笑うエド。
うっ! 笑顔が眩しすぎる。
思わず顔が赤らみそうになり……バレないように俯きながらケーキを口にした――
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「ここが魔女の店さ」
「こ、ここがですか……?」
エドに連れて来られた店は先程ケーキを食べた店の数件隣に建っていた。
「ああ、そうさ」
目の前に建っている店はどうみても魔女の店には見えなかった。真っ白な壁に赤い屋根。店の前には立て看板があり、堂々と『魔女の雑貨店』と書かれている。
「こ、こんな目立つ店が……もっと、魔女の店というと森の中にひっそり佇んでいるものじゃないですか? こう……人の目にあまり触れないような場所に」
「まぁ、魔女によりけりかもな。でも、『魔女の雑貨店』と書かれているくらいだから、本物の店なんじゃないか? 何しろ俺もここに来るのは初めてだからな」
エドはポケットから、手帳らしきものを取り出した。
「その手にしているものは何ですか?」
「これ? 魔女の組合名簿だよ」
「え! そんなもの持っていたのですか!? どうしてさっき教えてくれなかったんですか!」
「それはステラに俺の存在価値を分かってもらいたかったからさ。それじゃ中に入ろうか?」
エドは笑顔で店の扉を開けた――