「この世界には魔女がいるんですか?」

「この世界? またステラはおかしな物言いをするんだな。はい、オベントウありがとう。美味しかった、また頼むよ」

エドは空っぽになったバスケットをよこしてきた。私は空っぽになったオベントウを見つめ……次に、恨めしそうにエドを見た。

「エド……」

「何だい? ステラ」

「悲しいお知らせがあります。非常に残念ですが……もう、お弁当は無理です」

「ええっ!? む、無理!? 何故!」

「それはですね、つまりお米がもう無いからです!」

「な、何だって!? オコメが……無い!?」

大げさに驚くエド。

「はい、よって……お弁当はもう持ってくることは出来ません」

「そうか……オコメが無いのか……なら仕方がないか……それで、オコメって何?」

「ガクッ!」

「え? その……ガクッって何?」

「擬態語ですよ。今にも力尽きそうなときとか、がっかりしたときに使う言葉です」

何故、ガクッ! の意味を教えなければならないのだろう?

「へ〜そうなのか……ガクッか……何かに使えそうだな? それでオコメの意味は何だい?」

「お米はご飯のことですよ。つまり、おにぎりはご飯で出来ているんです」

「え……? そ、それじゃ……ひょっとして……」

「はい、そうです。つまり……今のが最後のおにぎりってことですよ!」

不敬罪に問われようと構わない。
私はビシッとエドの顔を指さした。何しろ、彼のおかげで全てのお米をたいらげられてしまったのだから。

「そ、そう……だったのか……? ガクッ!」

エドは「ガクッ!」の使い方を覚えたようだった――


****

 気を取り直した私とエドは校内にあるカフェテリアに来ていた。

「それではエドさん。魔女について教えて下さいよ」

Aセットのサンドイッチを食べながら、向かい側でコーヒーを飲んでいるエドに尋ねた。

「ステラは本当に魔女のことを知らないのか?」

「ええ、何度も言っている通り、私は記憶喪失だって言ってるじゃないですか」

本当は、中身が全く別の人間だからとは話がややこしくなるので言わない。

「そう言えばそうだったな」

「魔女って、どんなことが出来るんですか? 例えば箒に乗って空を飛んだり、かぼちゃを馬車に変えたり、呪いをかけたりとか……」

「それはすごいな〜そんなことが出来る魔女がいるのか?」

何故か私の話に感心するエド。

「え!? 違うんですか!?」

「う〜ん……俺が知っている魔女は少なくとも今ステラが言ったことは出来ない……はずだ。でも、呪いに近いことなら出来るかな?」

「呪いに近いこと……? なんだか随分物騒ですね」

それでは、この魂の交換は魔女の仕業ではないのだろうか?

「呪いに近いのもちょっと違うかな……いや、どうかな……」

「何なんですか? はっきりしませんね。それならどんなことが出来るんです?」

「例えば、病気や怪我を直す薬を作ったり、惚れ薬や相手を服従させる薬を作ったり……とかかな?」

「え……? 惚れ薬や服従させる薬? それはまた随分穏やかではない薬ですね?」

「そう、だから呪いに近いかもって言ったんだよ」

「そうですか……」

どうにも、魔女の作る薬が気になって仕方がない。

「エド……魔女は何処にでも住んでいるんですか?」

「ひょっとして魔女に会いたいのか?」

「はい、出来ればすぐにでも。だけど、場所が分からなければ行けませんよね……」

「あ〜それなら大丈夫だよ。魔女組合に行けば、教えてもらえるから」

「え!? 魔女組合!? そんなものがあるのですか!?」

「そうだね。まぁ商店街の組合みたいなものと似てるんじゃないかな〜」

そんな、商店街と一緒にするなんて……でもこれはいいことを聞いた。

「エド。その魔女組合の場所を教えてください! だって私達……友達ですよね!?」

私は両手でエドの手を握りしめた――