「もっと離れて歩いてくださいよ」

1時限目の授業が終わり、教室を出る私にぴったりくっついて歩くエドに訴える。

「何で? だって俺たちは恋人同士を演じているんだから当然だろう? コレでも距離が遠いくらいだ。それにステラと一緒だと女性たちが近づいてこないし」

そして私の手を繋いでくる。

「だ、だから! それが困るんですってば!」

冗談じゃない。ただでさえステラは悪女と誉れ高い? のだから厄介事はごめんだ。
手を振り払うとエドは笑った。

「ハハハハッ。やっぱりステラは面白いな。女性にこんな態度取られるのは初めてだ。一緒にいると飽きないよ。いっそ、本当の恋人同士になろうか?」

絶対これはからかわれている。

「お断りです」

「これは驚いたな。まさか、即答されるとは思わなかった。……困ったな、断られた場合の対処法なんて考えたこと無かった。……うん? もしかして俺は今振られたのか? だとしたら人生初かもしれない。いいね、実に新鮮だ」

ひとり、納得して頷くエド。

「何ひとりで、ブツブツ言ってるんですか?」

……本当に彼がこの世界のヒーローなのだろうか?

けれど、眩しいばかりのその美貌。
おまけにカレンの異常なまでの執着ぶり……うん、きっとエドがこの世界のヒーローに違いない……はずだ。

「けれど、何故そんなに邪険にするんだ? 何かステラの気の触ることをしてしまったか?」

「本当に、心当たりが無いんですか? エドがカレンさんに冷たい態度をとったせいで、私はますますあの人たちから目の敵にされるようになったんですよ? おまけに私が責められている時、傍観していましたよね? 声をかけてようやく動いてくれたじゃないですか」

ぞんざいな口の聞き方をしているのは自分でも分かっている。もはや、相手が王子であることすら忘れてしまいそうだ。

「それはステラに頼ってもらいたかったらさ。俺の必要性を改めて認識……いや、意識して欲しかったんだ」

そしてじっと見つめてくる。
これが普通の女性なら、エドに見つめられてポ〜ッとなってしまうだろう。だが、私は違う。

「エド……」

「何だい? ステラ」

立ち止まって、じっと見つめ合う私達。そして周囲の女子学生たちがヒソヒソ囁いている。

「ちょっと……あの、ステラ令嬢がエドワード王子様と見つめ合ってるわ」

「そんな……どうしてあの悪女と?」

「もしかして黒魔術にでもかけられたのかしら……?」

黒魔術? それにしても酷い言われようだ。

「どうしたんだい? ステラ」

エドは、満面の笑顔で私を見つめ……。

ぐぅぅ〜……

小さくエドのお腹がなった――


****


「いや〜ほんっと、悪いな。オベントウをもらって……うん、美味い! 最高だ」

誰もいない中庭のベンチで、私のお弁当をお箸で上手に食べるエド。
このお箸の出処は……勿論言うまでもなく、夢の世界の自室から取ってきたお箸だ。
やっぱりお弁当にはお箸だからね。

「ところでエド。少しお聞きしたいことがあるのですけど……」

「聞きたいこと? 何だい?」

エドは卵焼きを口に運びながら私を見つめる。

「ええ。先程、廊下で私に対する気になる悪口を聞いてしまったのですけど……」

「どんな悪口だっけ? ステラは色々言われていたからなぁ……」

うぅ……誰のせいだと思っているのだろう?

「黒魔術って存在するのですか?」

この世界に憑依して、1週間。今まで私は魔法なるものを目にしたことは無かった。
けれど、ここがいわゆる異世界のファンタジー世界というものならば魔法の一つや二つ存在していてもおかしくないだろう。
何しろ、魂の交換技術? まであるのだから。

「うん……多分あるだろうな。何しろ、魔女がいるくらいだから」

「え? 魔女……?」

私がその話に興味を持ったのは、言うまでもない――