その声に驚いて振り向くと、私以上に驚愕の表情を浮かべているカレンの姿があった。
そして勿論彼女の背後には取り巻きの男3人衆がいる。……そこには当然エイドリアンの姿はない。

「エドワード王子様! 何故ステラさんと一緒にいるのですか?」

私に視線を向けることもせず、涙目でエドに訴えてくるカレン。そしてそんな彼女の様子をじっと見守る3人のナイト? 達。

「何だ、また君か……? 何故、ステラと一緒にいるのか理由を話さなければいけないんだい?」

面倒くさそうに答えるエド。

「そ、そんな……酷い……」

酷い? これくらいのことで酷いと言うなんて……呆れてしまう。
どうやらこのカレンの中にいる人物は、私のように社会の荒波に揉まれた経験など無いのだろう。
世間知らずのお嬢様だったのだろうか?

背後に控えている3人のナイトたちは、ぐっと堪えるように口を閉ざしている。
恐らくエドが王族だから、歯向かうことが出来ないのだろう。

素晴らしい! 権力、万歳!

「ちょっと! ステラさん! 酷いじゃないですか!」

「はい!?」

すると、驚くべきことに何故かカレンは私に怒りをぶつけてくる。

「あの……私の何処が酷いの?」

すると、男どもが喚き始めた。

「何だと! 自分の罪を分かっていないのか!?」

「心当たりが無いなら胸に手をあてて思い出してみろ!」

「エイドリアンに何をしたんだ!」

その言葉に、ピンときた。

「エイドリアン……? あ、そういうことか……」

「ほら! やっぱり! 今朝、エイドリアン様が皆と一緒に迎えに現れなかったから、おかしいと思ったんです! いつも私の送り迎えを忘れなかった、あの人が!」

カレンが金切り声を張り上げて、私を非難し続ける様を他の学生たちは静かに傍観している。

……何かがおかしい。
エイドリアンは私の婚約者だったのに、(もっとも彼に関しては1ミリの興味もないが)カレンの取り巻きのひとりだった。
普通に考えれば非難されるべきはカレンであるはずなのに、何故声を上げる学生がここにはいないのだろう?

「ちょっと! 黙っていないで、何とか言ってみたらどうですか!」

ヒステリックに叫ぶカレン。

「そうだ! カレンの言うとおりだ!」

「何て目で見てるんだよ! 本当に目つき悪いな!」

「カレンを泣かせるなんて……やっぱりお前は悪い女だ。この悪女め!」

もうメチャクチャだ。
目つきが悪いのは仕方ないし、カレンのほうが余程悪女に見える。

そしてエド。
何故彼は傍観しているのだろう? 私達……友達同士なんだよねぇ!?

「エ、エド……」

友達ならなんとかしてよ!

必死で目で訴えると、エドは私を見つめてニコリと笑う。次に、肩を抱き寄せてきた!

「さっきから、黙っていれば……君たちは随分好き勝手なことをステラに言ってるじゃないか? 大体、エイドリアンはステラの婚約者なんだろう? それなのに、何故君の家に送り迎えさせていたんだ? 目つきが悪いのはステラのせいじゃないだろう? それにたった今、彼女のことを悪女と言ったが……俺には君のほうが余程悪女に見えるけど?」

「そ、そんな……! エドワード王子様……?」

カレンの顔が真っ青になる。

「とにかく、俺の恋人に酷いことをするのはやめてくれないか?」

そしてエドは私の肩を抱き寄せてきた。

「こ、恋人!? う、嘘ですよね!? そんな設定……信じられません!」

カレンが激しく首を振る。

え? 設定……? 設定って何のこと?

すると――

「もういい、行こう。カレン」

3人衆の中で一番イケメン男(もっともエドとは比べ物にならない)が、声をかけてきた。

「アンドレ様……」

カレンが涙目でイケメン男を見上げ、彼らはヒロイン? を取り囲んで連れ去って行く。

ふ〜ん……彼がアンドレか。もしかすると、あの人物もいたりして……。
そんなことを考えていると、メガネ男が立ち止まって私を振り向いた。

「覚えてろよ」

メガネ男性が吐き捨てるように私に文句を言い捨てると、カレン達の後を追いかけていく。

「はぁ!?」

何で? 何で私が「覚えてろよ」と言われなくてはならないのだろう?
今カレンを非難したのは私ではなく、エドだよね?

「エ、エド……」

恨めしそうな顔でエドを見上げる。しかし、私の気持ちに彼は気づこうともせず笑顔を向けた。

「どうだ? 見事に追っ払ってあげただろう? 今日のお昼が楽しみだ。何しろ助けてあげたんだから……当然くれるよな? オベントウを」

「はぁ!?」

追っ払った? エドのせいで余計恨みを買った気がするのは……うん、多分気のせいではないだろう――