エドに手を繋がれたまま、教室へ入ると中にいた全員がギョッとした顔つきになった。

そして、ヒソヒソとこちらを見て話し始めた。

「お、おい……どういうことだよ……」

「ステラ・アボットが一緒にいる人物って……」

「留学生のエドワード王子じゃないか」

その言葉に、私は衝撃を受けた。

えええっ!? お、王子!? エドが!?

驚いて声も出ない私にエド……いや、エドワード王子が声をかけてきた。

「どうしたんだ? ステラ。顔色が悪いぞ? あ、あそこの席に座ろう」

エドワード王子はますます私の手を強く握ると、スタスタと窓際の最後尾の席に座り、尋ねてきた。

「俺は視力がいいから最後尾でも見えるが、ステラはどうだ?」

「はい、私も問題ないですが……」

いや、問題ないどころか大アリだ。教室にいる学生たちは未だにこちらを見てヒソヒソ話しているし、女性たちに至っては私に敵意の目を向けている。

それなのに、当の本人は呑気に窓の外を眺めている。

「今日も良い天気だな〜」

「エ、エド。いえ、エドワード様」

小声でエドに話しかけると、途端に彼は眉を顰める。

「ステラ、エドワードじゃない。エドって呼ぶように言っただろう? 他人行儀な呼び方はやめてくれよ。俺たち、恋人同士だろう?」

そしてウィンクしてくる。

「キャア! ウ、ウィンクしたわ!」

「あの悪女に!」

女子学生達の敵意の視線は益々強まる。うぅ……目立ちたくないのに!

「どうしたんだ? そんな恨めしそうな目を向けて?」

「恨めしいに決まってるじゃないですか……あ、いいえ! まさか! 恨めしくなんかありませんよ?」

大変だ! 相手が王族なら変なことは口走れない。そんなことをすれば……不敬罪に問われてしまうかも!

「アハハハハハッ! ステラは面白いなぁ。一緒にいると飽きないよ」

そして頭を撫でてきた。

ギャ〜ッ! な、何てことをしてくれるのよ!

「エド、それよりもどういうことですか!? あ、あなたは……王子様だったのですか!?」

「あれ? 今更何を言ってるんだ? この大学に通う者は誰でも知っていると思っていたけどなぁ?」

エドは首を傾げる。

知らない! そんなこと知るはず無い! だって、私はこの身体の人物……ステラのことだって知らないのだから!
ましてや、エドが王子だなんて知るはず無い!

「もう忘れたんですか? 私、記憶喪失だって説明しましたよねぇ?」

「……あ、いや。覚えている、忘れてなんかいるものか」

「何ですか? 今の間は。忘れていたのでしょう? とぼけても無駄ですよ……いえ! 今の言葉は無かったことにしてください!」

慌てて首をぶんぶん振る。

いけない! またしてもやってしまった! 不敬罪に問われかねない……失礼な態度を!

「それにしてもさっきから妙な言動を繰り返しているよな〜」

頬杖をつきながらエドが尋ねる。

「ええ、そうなりますよ。だってエドは王子様なんですよね?」

「あぁ、そのことか……それがどうしたんだ? 大体王子と言っても俺は6番目だから、王位継承権も無いし権力争いに巻き込まれることもない。気楽な身分さ」

そしてニコニコ笑う。

「はぁ……そうなんですね」

お気楽な王子だ。普通、小説や漫画の世界では王位継承権を狙って血みどろ? の戦いが繰り広げられるのでは? いや、実際の歴史でもありえる。

その時――

「えっ! ど、どういうことなの!?」

私達のすぐ近くで大きな声が聞こえてきた――