屋敷に戻ってくると、早速フットマンが出迎えて私を母の部屋へ案内した。
「お帰りなさい、ステラ。大学はどうだったかしら?」
部屋に招かれて中に入ると、母はソファに座って刺繍をしていた。
「はい、お陰様で散々な目に遭いました」
心配させたくは無かったが、どうしてもエイドリアンと婚約破棄をしたかったので正直に報告する。
「まぁ! 散々な目に遭ったのね? では話を聞きましょう。さ、こちらにお座りなさい」
母は縫いかけの刺繍をテーブルの上に置くと手招きしてきた。そこで言われたとおりに座ると、身を乗り出してくる。
「それでステラ。飲み物は紅茶とクッキーでいいかしら?」
「ええ。それで構いません」
本当はお茶とお煎餅が欲しいが、そんな物はこの世界にないし。それどころか再び医者を呼ぶ騒ぎになるに違いない。
すると母は手元のベルを鳴らし、メイドを呼びつけると2人分のお茶とお菓子を持ってくるように命ずる。
メイドが下がると、再び母は私に向き直った。
「それで? どんなことがあったの? 遠慮なく話しなさい」
何故か目をキラキラさせて見つめてくる。
う〜ん……ひょっとして、面白半分に思っているのではないだろうか……?
「はい、実は……」
小さな疑問を抱きつつ、私は早速母にエイドリアン達の話を始めた。
その間、母はお茶を飲みつつ「それで?」「次にどうなったの?」「まぁ酷い話ね!」等相槌を打ちながら私の話を真剣に聞いていた。
「……それでつくづくエイドリアンには嫌気がさしたので婚約解消ではなく、こちらから婚約破棄を申し出たいのですが……」
チラリと母を見る。
やはり、こんな大事な話は父抜きでは進められないだろうか? そう思ったのだが……。
「ええ、ステラの気持ちは良く分かったわ。では早速手紙を書きましょう!」
母はスクッと立ち上がると、ライティングデスクに向かった。
「え? お母様?」
私の質問にも返事をせず、母はレターセットを取り出すとスラスラと何やら文章を書き始めた。
まさか、婚約破棄の申し出を書いているのだろうか?
「書けたわ!」
私を振り返る母。
「あの……まさかとは思いますけど、その手紙は……?」
「ええ、婚約破棄の申し出よ」
「え!? もうですか!? しかもそんな簡単に!?」
手紙を見ても、ほんの数行しか書かれていない。
「ええ、いいのよ」
母は得意気に返事をすると、手紙を二つ折りにして封筒に入れた。
「あの〜そんな簡単な手紙で良いのですか? それではアボット家の手紙だと思われないのでありませんか?」
偽物だと思われてはたまらない。
「大丈夫よ、我がアボット家の家紋の封蝋をすればいいのだから」
「はぁ……だけど、失礼ですがこんな簡単な手紙で婚約破棄の申し出をしても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ。だってこちらは婚約破棄させたかったのだから。だけどあなたが拒否するから出来なかったのよ。でも、やっと目が覚めたようね。良かったわ」
母がニッコリ笑う。
「そ、そうですね……」
「では、早速この手紙を届けてもらいましょう」
「ええっ!? もうですか? いくらなんでも早くないですか? お父様の許可もなしに?」
「いいのよ」
そして母は再びベルを鳴らすと、先程とは別のメイドが現れた。
「奥様、お呼びでしょうか?」
「ええ。この手紙をすぐに、ロンド家に届けて頂戴」
ロンド家……? エイドリアンのことだろうか?
「かしこまりました」
メイドは手紙を受け取ると、足早に去って行く。まさか本当に届けるのだろうか?
「さて、今夜は面白いことになりそうね?」
再び母が私を見て笑う。
「は、はぁ……」
面白いこと?
困ったことになるの間違いではないだろうか? 何しろ父に何の相談もなく婚約破棄の手紙を出してしまったのだから。
そして、母の言葉は現実になった――
「お帰りなさい、ステラ。大学はどうだったかしら?」
部屋に招かれて中に入ると、母はソファに座って刺繍をしていた。
「はい、お陰様で散々な目に遭いました」
心配させたくは無かったが、どうしてもエイドリアンと婚約破棄をしたかったので正直に報告する。
「まぁ! 散々な目に遭ったのね? では話を聞きましょう。さ、こちらにお座りなさい」
母は縫いかけの刺繍をテーブルの上に置くと手招きしてきた。そこで言われたとおりに座ると、身を乗り出してくる。
「それでステラ。飲み物は紅茶とクッキーでいいかしら?」
「ええ。それで構いません」
本当はお茶とお煎餅が欲しいが、そんな物はこの世界にないし。それどころか再び医者を呼ぶ騒ぎになるに違いない。
すると母は手元のベルを鳴らし、メイドを呼びつけると2人分のお茶とお菓子を持ってくるように命ずる。
メイドが下がると、再び母は私に向き直った。
「それで? どんなことがあったの? 遠慮なく話しなさい」
何故か目をキラキラさせて見つめてくる。
う〜ん……ひょっとして、面白半分に思っているのではないだろうか……?
「はい、実は……」
小さな疑問を抱きつつ、私は早速母にエイドリアン達の話を始めた。
その間、母はお茶を飲みつつ「それで?」「次にどうなったの?」「まぁ酷い話ね!」等相槌を打ちながら私の話を真剣に聞いていた。
「……それでつくづくエイドリアンには嫌気がさしたので婚約解消ではなく、こちらから婚約破棄を申し出たいのですが……」
チラリと母を見る。
やはり、こんな大事な話は父抜きでは進められないだろうか? そう思ったのだが……。
「ええ、ステラの気持ちは良く分かったわ。では早速手紙を書きましょう!」
母はスクッと立ち上がると、ライティングデスクに向かった。
「え? お母様?」
私の質問にも返事をせず、母はレターセットを取り出すとスラスラと何やら文章を書き始めた。
まさか、婚約破棄の申し出を書いているのだろうか?
「書けたわ!」
私を振り返る母。
「あの……まさかとは思いますけど、その手紙は……?」
「ええ、婚約破棄の申し出よ」
「え!? もうですか!? しかもそんな簡単に!?」
手紙を見ても、ほんの数行しか書かれていない。
「ええ、いいのよ」
母は得意気に返事をすると、手紙を二つ折りにして封筒に入れた。
「あの〜そんな簡単な手紙で良いのですか? それではアボット家の手紙だと思われないのでありませんか?」
偽物だと思われてはたまらない。
「大丈夫よ、我がアボット家の家紋の封蝋をすればいいのだから」
「はぁ……だけど、失礼ですがこんな簡単な手紙で婚約破棄の申し出をしても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ。だってこちらは婚約破棄させたかったのだから。だけどあなたが拒否するから出来なかったのよ。でも、やっと目が覚めたようね。良かったわ」
母がニッコリ笑う。
「そ、そうですね……」
「では、早速この手紙を届けてもらいましょう」
「ええっ!? もうですか? いくらなんでも早くないですか? お父様の許可もなしに?」
「いいのよ」
そして母は再びベルを鳴らすと、先程とは別のメイドが現れた。
「奥様、お呼びでしょうか?」
「ええ。この手紙をすぐに、ロンド家に届けて頂戴」
ロンド家……? エイドリアンのことだろうか?
「かしこまりました」
メイドは手紙を受け取ると、足早に去って行く。まさか本当に届けるのだろうか?
「さて、今夜は面白いことになりそうね?」
再び母が私を見て笑う。
「は、はぁ……」
面白いこと?
困ったことになるの間違いではないだろうか? 何しろ父に何の相談もなく婚約破棄の手紙を出してしまったのだから。
そして、母の言葉は現実になった――