「あの〜何でついてくるんですか?」

3時限目の授業が行われる教室へ向かいながら、隣を歩くエドに尋ねる。

「次の授業へ行くんだろう? 一緒に行こうと思ってね。だって、俺たち友達だろう?」

ボサボサの前髪のせいで彼の表情はよく分からないが、それでも機嫌良さそうに見える。

「別に友達なら始終一緒にいる必要はありませんよね? ましてや恋人同士でもあるまいし」

「そうか。なら恋人になろうか? 俺はそれでも一向に構わないけど……ってその目は何だ? 随分不満そうに見えるんだけど? そんな顔つきをすると、ただでさえ鋭い目つきが益々悪くなるからやめたほうがいいな」

「あの、言いましたよね? 私は別に恋人なんか欲しくないって。それに本当に一言よけいなことを口にしますよね」

「そうか、それは失礼。つい、ステラの前だと本音を話してしまうんだよな。変に気取らなくて済む」

「それはそうでしょう。おにぎり欲しさになりふり構わない姿を既に私に見せているんだから」

「あ、バレたか。でも、本当にあのおにぎりは美味しかった……また明日もよろしくな?」

そう言って、エドは私の肩をポンポンと叩く。

「ええっ!? だから、どうして私がそんなことを……」

「そのかわり! だ」

エドは私の言葉を遮る。

「どうやらステラはカレンと取り巻きたちに目をつけられてしまっているみたいだからな……いざというときは俺が助けてあげよう。さっきみたいにね」

「縁起悪いこと言わないでもらえますか? それに始終一緒にいると目立つじゃないですか……私は目立ちたくないんですよ」

この大学での私の評判が悪いのは、よーく分かった。そしてこの特殊な髪色のせいで、悪目立ち過ぎているということも。
それに、隣を歩くエドも別の意味で目立っている。
飛び抜けて背が高いのもそうだが、問題なのはその髪型だ。

「まぁ、確かにそのピンク色の髪は目立つな。遠目からでもはっきりステラだということが分かるし」

「そういうエドこそ、目立ってますよ」

「そうなのか? 俺の何処が目立っているんだ? コレでも随分マシになったと思うんだけどな……」

マシ? 何がマシなのだろう? 言っている意味が良く分からない。

「そのボサボサな前髪……何とかなりません? 折角綺麗な銀髪なのに……勿体ないですよ。さっきだって通りすがりの学生が『酷い髪型だ』と言ってましたよ」

「ステラも、この髪型おかしいと思うか?」

「それはそうですよ。もっと清潔感がある方がいいに決まってるじゃないですか」

「なるほど。清潔感ね……なら仕方ないか。他ならぬステラの言葉だ、考えておこう」

考えておく? 一体どういう意味だろう。本当に謎の多い人物だ。

その後も私達はどうでもいいような会話を交わしながら、教室へ向かった――




****


「うそ……! もう、最悪……」

私は教室の机に突っ伏していた。驚いたことに、エイドリアン達が同じ授業を選択していたからだ。ひょっとすると、このままでは全ての選択科目が彼らと同じかもしれない。
彼らは教壇の前の席を陣取り、男性たちはこちらを睨みつけている。

「何が最悪なんだ? 誰と同じ授業を受けているのかなんて、分かりきっていたことなんじゃないのか? それなのに、今さら何を言ってるんだよ?」

隣に座るエドが頬杖をつきながら、尋ねてくる。確かにエドにしてみれば不思議に思っても当然だ。
けれどもう説明するのも面倒だった。だから、今自分が置かれている環境だけ正直に伝えることにした。

「実は私記憶喪失になってしまって、何もかもすっかり忘れてしまったんです。自分の名前も……生い立ちも、置かれた環境も……分かります? この辛さ」

そしてじっとエドを見つめる。

「ステラ……」

ん? 何この反応。もしかして……信じてくれた?

「そうかそうか。そんなに婚約者に冷たくされて辛くて現実逃避しようとしているのか。気の毒になぁ……」

そして私の頭を撫でてくる。

「はぁ!?」

誰が現実逃避しているって?

「大丈夫だ、ステラは運が良かった。何しろ俺という友人が出来たんだ。だから辛いことがあったら何でもこの俺を頼るといい。その代わり……また、おにぎりをよろしく頼むよ?」

「あ〜はいはい。分かりましたよ」

もう面倒くさくなったので、適当に返事をすることにした。

だって、どのみちあの夢を再び見れなければ、お米を手に入れることなんて無理なのだから――