見上げてみると銀色のボサボサ髪にジャケット姿の男性が隣のベンチで、こちらを見ている。
「え~と……あ、あなたは……昨日の公園の人?」
「そうだよ。こんなところで会うなんて奇遇だな。 そんなに花が好きなのか?」
何故か彼は立ち上がると私の座るベンチに移動し、あろうことか座ってきた。
「別に花が好きだというわけではありません。ベンチがあったから、たまたま座っていただけです」
「ふ~ん。そうか、俺と同じだな」
「はい? 同じって?」
「俺も別に花が好きなわけじゃない。ベンチがあったから座っただけだ。ついでに眠かったから今も、うたた寝をしていたら『あ~ボッチは暇だな……』って声が聞こえてきたんだよ。そして顔を上げたら……君がいた」
「そうですか」
一体、この人は何だって隣に座ってきたのだろう? 別に私達は顔見知りでも無いし、名前すら知らないのに。
「それで、ボッチって何だ?」
「え?」
「さっき、ボッチは暇だって言ってただろう? ボッチってどういう意味なんだ?」
「ボッチというのは、ひとりぼっちって意味ですよ。略して『ボッチ』です」
まさか、この人はボッチの意味を知りたくて隣に座ってきたのだろうか?
「何? ひとりぼっちだって? それじゃ君はひとりぼっちなのか?」
「ええ、そうです」
何でこんな会話をしなければならないのだろう。虚しい気持ちになってくる。
「そうか……婚約者には振られ、大学内ではボッチ……なるほど。哀れだな」
その言葉にイラッとくる。
「あの、別に私は婚約者に振られたわけではありません。あんな男、こちらから願い下げです」
「まぁ、確かに女連れで婚約者との待ち合わせ場所に来る最低な男はやめたほうがいいな。俺が君の立場でもそうするよ。それに、あの女は質が悪い」
「質が悪いって……もしかしてカレンさんのことを知ってるんですか? この大学の学生ですか?」
「学生に決まっているだろ? ここは大学の敷地にある中庭なんだから」
青年は肩をすくめる。
「でも、カレンさんはあなたのことを知らないように見えましたけど?」
「あ、ああ。俺は、ほら。目立たない男だから」
「なるほど、だから貴方も『ボッチ』なのですね?」
「別に『ボッチ』というわけでは……いや、うん。ボッチだな、俺はボッチだ」
妙に自分に言い聞かせる青年。変な人だ。
「ところで、ここで何しているんだ? 授業には出ないのか?」
「変な授業の取り方をしてしまったので、空き時間なんですよ。……全く、何だってこんな取り方をしているんだか……」
「自分で選択したんだろ? 自業自得なんじゃないか?」
「ええ。そうですね。確かにそうなのですけど……何だかさっきから言いたいこと言ってません? でも、そちらこそ何故授業出ていないんですか?」
「苦手な人物が正門で待ち受けていたから、まいて逃げてきたんだよ。最近しつこくつきまとわれてうんざりしているんだ」
ため息をつく青年。
「ふ~ん……そうですか」
こんなボサボサ髪にヨレヨレジャケット姿の彼にしつこくつきまとう人物がいたのか。ひょっとして女性かな?
「折角早めに大学に来て、学食でモーニングを食べようと思っていたのに……食べそこなってしまったし」
そして青年はお腹をさする。余程お腹が空いているのだろうか?
そこで私はベンチに置いたバスケットの蓋を開けると、パラフィン紙で包んだおにぎりを差し出した。
「よろしければどうぞ」
「え……? これは……何だ? 食べ物なのか? おまけに黒い物体がついているけど?」
目元は良く見えないが、青年は明らかに驚いているように見える。
「これは、おにぎりという食べ物です。あ、ついでに言うと周りについているのは海苔という食べ物ですよ」
「本当に……これ、食べられるのか?」
その言葉にムッときた。
「なら、食べなくて結構ですよ。私が頂くので」
全く……貴重なお米で作ったおにぎりなのに……。
おにぎりを取り上げようとすると、とたんに彼は慌てた。
「ごめん! 悪かった! 食べる、食べるから!」
そして、青年はおにぎりを口にした――
「え~と……あ、あなたは……昨日の公園の人?」
「そうだよ。こんなところで会うなんて奇遇だな。 そんなに花が好きなのか?」
何故か彼は立ち上がると私の座るベンチに移動し、あろうことか座ってきた。
「別に花が好きだというわけではありません。ベンチがあったから、たまたま座っていただけです」
「ふ~ん。そうか、俺と同じだな」
「はい? 同じって?」
「俺も別に花が好きなわけじゃない。ベンチがあったから座っただけだ。ついでに眠かったから今も、うたた寝をしていたら『あ~ボッチは暇だな……』って声が聞こえてきたんだよ。そして顔を上げたら……君がいた」
「そうですか」
一体、この人は何だって隣に座ってきたのだろう? 別に私達は顔見知りでも無いし、名前すら知らないのに。
「それで、ボッチって何だ?」
「え?」
「さっき、ボッチは暇だって言ってただろう? ボッチってどういう意味なんだ?」
「ボッチというのは、ひとりぼっちって意味ですよ。略して『ボッチ』です」
まさか、この人はボッチの意味を知りたくて隣に座ってきたのだろうか?
「何? ひとりぼっちだって? それじゃ君はひとりぼっちなのか?」
「ええ、そうです」
何でこんな会話をしなければならないのだろう。虚しい気持ちになってくる。
「そうか……婚約者には振られ、大学内ではボッチ……なるほど。哀れだな」
その言葉にイラッとくる。
「あの、別に私は婚約者に振られたわけではありません。あんな男、こちらから願い下げです」
「まぁ、確かに女連れで婚約者との待ち合わせ場所に来る最低な男はやめたほうがいいな。俺が君の立場でもそうするよ。それに、あの女は質が悪い」
「質が悪いって……もしかしてカレンさんのことを知ってるんですか? この大学の学生ですか?」
「学生に決まっているだろ? ここは大学の敷地にある中庭なんだから」
青年は肩をすくめる。
「でも、カレンさんはあなたのことを知らないように見えましたけど?」
「あ、ああ。俺は、ほら。目立たない男だから」
「なるほど、だから貴方も『ボッチ』なのですね?」
「別に『ボッチ』というわけでは……いや、うん。ボッチだな、俺はボッチだ」
妙に自分に言い聞かせる青年。変な人だ。
「ところで、ここで何しているんだ? 授業には出ないのか?」
「変な授業の取り方をしてしまったので、空き時間なんですよ。……全く、何だってこんな取り方をしているんだか……」
「自分で選択したんだろ? 自業自得なんじゃないか?」
「ええ。そうですね。確かにそうなのですけど……何だかさっきから言いたいこと言ってません? でも、そちらこそ何故授業出ていないんですか?」
「苦手な人物が正門で待ち受けていたから、まいて逃げてきたんだよ。最近しつこくつきまとわれてうんざりしているんだ」
ため息をつく青年。
「ふ~ん……そうですか」
こんなボサボサ髪にヨレヨレジャケット姿の彼にしつこくつきまとう人物がいたのか。ひょっとして女性かな?
「折角早めに大学に来て、学食でモーニングを食べようと思っていたのに……食べそこなってしまったし」
そして青年はお腹をさする。余程お腹が空いているのだろうか?
そこで私はベンチに置いたバスケットの蓋を開けると、パラフィン紙で包んだおにぎりを差し出した。
「よろしければどうぞ」
「え……? これは……何だ? 食べ物なのか? おまけに黒い物体がついているけど?」
目元は良く見えないが、青年は明らかに驚いているように見える。
「これは、おにぎりという食べ物です。あ、ついでに言うと周りについているのは海苔という食べ物ですよ」
「本当に……これ、食べられるのか?」
その言葉にムッときた。
「なら、食べなくて結構ですよ。私が頂くので」
全く……貴重なお米で作ったおにぎりなのに……。
おにぎりを取り上げようとすると、とたんに彼は慌てた。
「ごめん! 悪かった! 食べる、食べるから!」
そして、青年はおにぎりを口にした――