だが、今のリョウにはどんな言葉も届かない。
リョウは黒の鎌を構えると、その両翼を使い、一気に加速をつけて亜矢に向かって行った。
鋭い、黒き刃を向けて。

「い………やっ………!」

正面から襲い来る刃に亜矢は立ち尽くしたまま、ただ小さく叫んだ。
その目から、ひと粒の涙が零れた。

ガキィン!!

刃物と、刃物がぶつかる音が響いた。
亜矢の目の前にグリアが立ち、自分の鎌でリョウの鎌の刃を受け止めていた。
ぶつかり合う、黒と白の刃。

「あ………」

亜矢はただ、言葉にならない声を出すしか出来なかった。
リョウはその反動で刃を引くと、冷たく言い放つ。

「………邪魔だよ、グリア」

グリアはこの状況にも関わらず、笑いを浮かべる。

「やべえな、あの鎌は。死神を斬る事が出来るヤツか……。ククク、本気でオレ様を殺ろうってワケか」

笑ってはいるが、余裕なんて微塵もない。額から、汗が流れ出る。

「なんで……?なんで、こんな事………」

目の前で、グリアとリョウが敵対し、刃を向けあっている。
亜矢は、ただ目の前の光景を呆然と目に映す事しか出来なくて。
その時、グリアに異変が起きた。

「グッ……」

グリアが苦痛に顔を歪めた。手から、鎌が落ちた。
亜矢がグリアの様子を覗きこむと、グリアの片手が消えかかっていた。
霧状に分散し、空中に消えるようにして、グリアの手から腕へと進行していく。

「!!」

亜矢は手で口を覆った。声など、もう出ない。

「く………やべえ、『消滅』が始まっちまった……!!」

『魂の器』が完成した後、亜矢の魂を食べなければグリアは消滅してしまう。
もはや、グリアに時間は残されていない。
選択の余地なんて、ない。
このまま行けば、グリアは消滅の道を辿ってしまう。

「うそ………死神……い、いや……」

どうすればいいのか、自分に何が出来るのか。亜矢は震えながらも、必死に何かの答えを探した。
リョウは、グリアの事など眼中にないのか、再び亜矢に刃を向けて構える。

「クッ……リョウ!!」

グリアが、苦痛に耐えながらもリョウを見上げる。
その時、ようやくリョウはグリアの身に起こった異変を目で捕らえた。
だが、何も反応は示さない。

「今、てめえがしてる事、それは……てめえの意志か?」

感情なくグリアを見るリョウの瞳が僅かに揺れた。

自分の意志?

リョウはただ、心を呪縛に飲み込まれ、天王の命令のみで動いているに過ぎない。
だが、何故だろうか。グリアの言葉で、リョウは何かを思い出しかけた。