終礼後、亜矢の親友・美保が、何やら楽しそうに話しかけてきた。

「ねえねえ亜矢〜!気にならない?」
「気になるって、何が?」

亜矢はカバンを背負うと、キョトンとして美保を見る。

「教育実習の先生よ!これがすっごいイケメンって噂よ!美保も見てみた〜い!」

1人、胸を躍らせる美保に対し、亜矢は半ばあきれ顔で返す。

「イケメンって、あんた…。美保はリョウくん一筋なんじゃないの?」
「もちろんリョウくんが1番よ!でもやっぱりカッコイイ人は気になるじゃない〜!」

今いち美保のテンションに乗れない亜矢はハイハイ、と軽く会話を流した。
教育実習で来ている先生は、とにかくカッコイイという、ここ数日の女子の間での噂だった。
だが、その先生は亜矢のクラスを受け持っていないので、亜矢は見た事がなかった。
それほど感心もなかった。今は、自分の事で精一杯。
見かけだけが良くても、正体が人間でない恐ろしいモノ、という前例がある。
そのいい例が今、目の前にいる死神—。
グリアは無言で亜矢の目の前に立ち、何を思うのか亜矢をただ見下ろしている。

「……何か用?あたし、もう帰るんだけど」

いつものように、強気な視線を向け、亜矢は堂々と言い放つ。
何故かこの2人は、向き合えばいつも反発ばかりしている。
そんな2人が唯一触れ合う『口移し』の時以外は——。

「嫌な感じがするぜ。ここ数日ずっと、だ」
「……え?」

グリアがあまりにも真剣な眼差しで言うので、亜矢は素で聞き返す。

「そんな気分なんでな、今日は先に行くぜ」

そう言うと、グリアは背中を向けて教室を出て行った。
亜矢はポカン、と彼の背中を見送っていたが、ハっと我に返る。

「べ、別に一緒に帰るなんて決まってないじゃないっ!」

亜矢は軽く腹を立てるが、まだ大半の生徒達が残っている教室内を見回して、ある事に気付いた。

「あれっ…リョウくんもいないわ」

その亜矢の呟きを聞いた美保が過剰な反応を示した。

「うそっ、リョウくん、もう帰っちゃったの!?一緒に帰ろうと思ったのに〜!!じゃあね、亜矢!お先にっ!!」

美保は慌てて駆け出し、教室を出て行った。
相変わらず積極的な美保に亜矢は感心するが、何か心が晴れない。
何かがひっかかるのだ。胸騒ぎにも似た、この心のモヤモヤは一体?
前にも、グリアは突然『嫌な感じがする』という発言をした事がある。
その時の言葉が示したものは、天使・リョウの出現であった。
では、今回は……?