死神グリアは、いつも以上にイライラしていた。
天使のリョウに続き、小悪魔のコランという邪魔者が現れたからだ。
いや、リョウもコランも別にグリアの邪魔をしようとしている訳ではないのだが、グリアにとっては目障りな存在にしか映らなかった。
時刻は夕飯時、マンションの一室。
亜矢の部屋で、一つのテーブルを囲んでいる三人。
今まで亜矢が一人暮らしをしていた頃と比べれば、この短期間でなんとも賑やかな食卓になったものである。

「なあなあ、何で死神の兄ちゃんは怒ってるんだ?」

コランは不器用な手付きで箸を扱いつつ、目の前のグリアを不思議そうに見ている。

「さあ、何でかしらね?毎日、夕飯をたかられるこっちの方が怒りたいくらいだわ」

コランの隣に座っている亜矢が、サラっと言う。
向かい側に座っているグリアは、黙々とひたすら食べ続けている。
その乱暴な仕草、少し伏せた顔から溢れる怒りの感情、食べる事以外は閉ざした口。
あきらかに不機嫌だ。

「コランくんは死神みたいな大人になっちゃダメよ?」

グリアが黙しているのをいい事に、亜矢は多少ふざけてイヤミを言ってみる。
もちろん、それがイヤミだなんて気付いていないコラン。
無邪気にニッコリ笑って亜矢の顔を見上げながら言う。

「うん!だってオレは立派な悪魔になるんだ!!」

どこか返答がズレてはいるが、意味としては合っているだけに誰も反論出来ない。
ひたすら食べ続けていたグリアの眉がピクっと動く。
さすがに堪えられなくなったのか、箸を置くと両手をテーブルについた。

「テメエら、さっきから好き勝手………」

そう言いかけた時、来客を知らせるインターホンの音が響く。
亜矢は席を立つと、何かを言いかけたグリアを無視して玄関へと向かう。
コランもヒョイっと軽く椅子から降りると、小走りで亜矢の後を追っていく。
テーブルに一人残された、死神。
発散しかけた怒りをぶちまける事も出来ず、何とも虚しさを感じつつも、再び箸を持つと黙々と食べ始める。
亜矢が玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは。

「美保!」

亜矢の親友の美保だった。

「こんばんは、亜矢。いきなりごめんね?」
「それはいいけど、どうしたの?」

亜矢はそう言ったとたん、ある事を思いだし、今の自分の言葉を心で否定した。

(よ、良くないわ!今、あたしの部屋には死神とコランくんが…!!)

そう思った時には遅かった。
亜矢の背後にいつの間にか隠れていたらしいコランが、ヒョコっと顔を出したのだ。

「なあなあ、誰が来たんだ?」

ギョっとしてコランを見下ろす亜矢だったが、コランは来客に興味津々なようだ。

「あら?この子だあれ?」

美保がキョトンとしてコランを見る。
亜矢は引きつった笑いをしつつ、取り乱しては余計に怪しまれると思い、無駄に冷静を装いながらいい感じの言い訳を探していた。
そんな亜矢の心など知らず、美保の問いにコランが答える。

「オレはコランだ!お前の名前は何だ?」
「コランくんって言うの?ふふ、可愛い〜い!私は美保。よろしくね!」
「よろしくな!」

なんだか意気投合している二人だったが、美保が特に不思議がらずに受け止めていたので、亜矢はそうだ!と思い付きで言った。

「そ、そう!コランくんは死神のイトコなのよ!!」

もはや、こう言うしかコランの事をごまかせなかった。
まさか、自分が召喚してしまった小悪魔だなんて本当の事は言えない。

「ふ〜ん、そうなの。だからグリアくんに似てるのね。でも、なんでグリアくんのイトコが亜矢の家に…?」

もっともな疑問を美保が口にしたその時、亜矢の背後から現れたその人物。

「なんだぁ?誰か来たのかよ」

亜矢は自分の背後から現れたグリアの声に振り向く事なく再びギョっとするが、次には諦めたのか、深く溜め息をついた。
もはや、言い訳不可能な展開に…。