玄関から外へ出るなり、グリアは亜矢の体を壁に押し付けた。
「ちょ…っ何するのよ!やめてよ、こんな場所で……」
「うるせえよ」
亜矢の肩を押さえ付けるグリアの腕に力が入る。思わず、亜矢は顔を歪める。
有無を言わせないグリアの剣幕。一体、何に憤慨しているのだろうか。
グリアは亜矢の肩を押さえ付けたまま、顔だけを僅かに伏せた。
銀色の髪が垂れ、その表情が微かに埋もれる。
「………ったく、次から次へと……邪魔なヤツばかり現れやがって」
「っ!!」
亜矢の呼吸が一瞬、止まる。
グリアの口調は、まるで独り言のようだった。
やり場のない怒りをぶつける対象もなく、目の前に亜矢を置きながらも、心は全く別の方向を向き、言葉は紡がれる。
「死神………」
初めてだった。死神がこんなに『弱く』見えたのは。
何かに押しつぶされそうになっている姿を見るのは。
いつも自己中心で、自信に溢れていて、何でも思い通りにしてしまう。
そんな、死神が、たった一人の少女の前で———こんな顔を見せるなんて。
「あたし、死神はもっと強い人なんだと思っていたわ」
グリアは、顔を上げない。
「自分勝手だし、何でも自分の思い通りにしちゃうし、だから……」
そんな顔はあなたらしくない、という言葉までは出ない。
本心であったとしても、それをここで言う必要性を感じない。
「………前に言ったよな」
「え?」
「オレ様の力でも、出来ねえ事があるって事だ」
グリアは亜矢の肩から手を下ろし、正面から向き合う。
元々の身長差により、亜矢はグリアを見上げる形となった。
「それは、人の心を変える事だ」
亜矢は、グリアの瞳から目をそらす事が出来ず、自らの瞳を大きく開く。
何故だろうか、引き込まれそうだった。
この死神は、一体どれだけの魔力を持って、どれだけの人を惑わせるのだろうか。
「嘘だわ。人の心くらい、操作出来るんでしょう?」
何を言ってるのだろうか。亜矢は自分自身に戸惑う。
どこか、認めたくなかったのだ。
自分がこの死神に騙され、惑わされ、口付けをされて——
そう思った方が、どれだけ簡単に自分を正当化出来たものか。
だが、くやしい事に今、目の前の死神は何も飾ってはいない。何の力も使ってはいない。
彼の瞳で、それは分かる———。
亜矢の中で、彼から与えられた心臓が鼓動を刻む。
「出来るんだったら、とっくにあんたの心を奪ってるぜ」
「…………」
確かに、今まで死神は人の『記憶』を操作出来ても、人の『心』を操作する事まではしなかった。
いや、出来なかったのだ。それは死神でも不可能なのだ。
「………心まで奪われたくないわ」
毎日、唇を奪われている上に、1年後にはこの魂でさえ奪われるかもしれない。
この死神は、どこまで亜矢を求めるのだろうか。そして、何の為に?
「その答えは、いずれ分かる。今はとりあえず…」
「とりあえず?」
亜矢が聞き返すと、グリアは片手で亜矢の頬に触れた。
これは『合図』だった。
「今日の『口移し』、行っとくか」
「……ちょっ、だから、こんな所で………っ…………」
こうして、『口移し』という名の口付けが、今日も交わされる。
相変わらず、雰囲気も何もあったものではないが。
「ちょ…っ何するのよ!やめてよ、こんな場所で……」
「うるせえよ」
亜矢の肩を押さえ付けるグリアの腕に力が入る。思わず、亜矢は顔を歪める。
有無を言わせないグリアの剣幕。一体、何に憤慨しているのだろうか。
グリアは亜矢の肩を押さえ付けたまま、顔だけを僅かに伏せた。
銀色の髪が垂れ、その表情が微かに埋もれる。
「………ったく、次から次へと……邪魔なヤツばかり現れやがって」
「っ!!」
亜矢の呼吸が一瞬、止まる。
グリアの口調は、まるで独り言のようだった。
やり場のない怒りをぶつける対象もなく、目の前に亜矢を置きながらも、心は全く別の方向を向き、言葉は紡がれる。
「死神………」
初めてだった。死神がこんなに『弱く』見えたのは。
何かに押しつぶされそうになっている姿を見るのは。
いつも自己中心で、自信に溢れていて、何でも思い通りにしてしまう。
そんな、死神が、たった一人の少女の前で———こんな顔を見せるなんて。
「あたし、死神はもっと強い人なんだと思っていたわ」
グリアは、顔を上げない。
「自分勝手だし、何でも自分の思い通りにしちゃうし、だから……」
そんな顔はあなたらしくない、という言葉までは出ない。
本心であったとしても、それをここで言う必要性を感じない。
「………前に言ったよな」
「え?」
「オレ様の力でも、出来ねえ事があるって事だ」
グリアは亜矢の肩から手を下ろし、正面から向き合う。
元々の身長差により、亜矢はグリアを見上げる形となった。
「それは、人の心を変える事だ」
亜矢は、グリアの瞳から目をそらす事が出来ず、自らの瞳を大きく開く。
何故だろうか、引き込まれそうだった。
この死神は、一体どれだけの魔力を持って、どれだけの人を惑わせるのだろうか。
「嘘だわ。人の心くらい、操作出来るんでしょう?」
何を言ってるのだろうか。亜矢は自分自身に戸惑う。
どこか、認めたくなかったのだ。
自分がこの死神に騙され、惑わされ、口付けをされて——
そう思った方が、どれだけ簡単に自分を正当化出来たものか。
だが、くやしい事に今、目の前の死神は何も飾ってはいない。何の力も使ってはいない。
彼の瞳で、それは分かる———。
亜矢の中で、彼から与えられた心臓が鼓動を刻む。
「出来るんだったら、とっくにあんたの心を奪ってるぜ」
「…………」
確かに、今まで死神は人の『記憶』を操作出来ても、人の『心』を操作する事まではしなかった。
いや、出来なかったのだ。それは死神でも不可能なのだ。
「………心まで奪われたくないわ」
毎日、唇を奪われている上に、1年後にはこの魂でさえ奪われるかもしれない。
この死神は、どこまで亜矢を求めるのだろうか。そして、何の為に?
「その答えは、いずれ分かる。今はとりあえず…」
「とりあえず?」
亜矢が聞き返すと、グリアは片手で亜矢の頬に触れた。
これは『合図』だった。
「今日の『口移し』、行っとくか」
「……ちょっ、だから、こんな所で………っ…………」
こうして、『口移し』という名の口付けが、今日も交わされる。
相変わらず、雰囲気も何もあったものではないが。