リョウが帰り、亜矢は部屋に一人で座り込み、ベッドに顔を埋めていた。
今までのグリアの言動が、記憶の中で繰り返し再生される。

『オレ様が生かしてやるって言ってるんだ、悪いようにはしねえ』

———それは、本気であたしを生かしてくれようとして?

『オレ様の事を好きになればいいんだ』

———それは、あなたを信じろという意味なの?

考えれば考えるほど、死神の事が分からなくなってくる。
毎日、『口移し』という方法で嫌でも触れあっているというのに、肝心な所は分からない。

「眠るんだったら、ベッドの上で寝ろよなぁ?」

答えの出ない思考を巡らしていると、いきなり聞こえてきたその声。
亜矢はバっと伏せていた顔を上げ、勢いよく振り向いた。
そこには、いつの間にかグリアが立っていて、いつもの意地悪そうな笑顔で見下している。

「ちょっと、勝手に人の部屋に上がり込まないでってば。それって犯罪よ」

亜矢は声を低くして言うが、グリアを睨み付けるだけで、いつもの勢いがない。

「何なら添い寝してやろうか?クク……」
「結構よ。もう、すっかり元気そうなのね?」
「あんなモン、少し眠って飯を食えば治る」

人間の場合は、そうは簡単にいかない。さすがは死神、と変な感心をしてしまう。

「ねえ、死神?」
「ああ?」

亜矢らしくもなく、亜矢は視線を泳がせている。続きの言葉が、出ない。

「あんたは、あたしを………」

魂の器として、利用しているだけなのだろうか?
そこまでして、グリアは永遠の命を手に入れたいのだろうか。
でも、それだったら、その器が亜矢である意味は?
対象が誰でもいいのなら、もっと扱いやすい人間なんて他にもいるだろう。
そう、彼の事を良く思う女なんて、いくらでも——。
終わりの見えない別の方向へと、どんどん亜矢の思考は巡る。

「………リョウから何か聞いたのか」

亜矢の言葉が終わる前に、グリアが続きを塞いだ。
さすがに、死神は鋭い。

「オレ様は、欲しいモノは全て手に入れる。永遠の命も…」

亜矢はその、真直ぐに自分を見据えるグリアの瞳に眼を向ける。

「あんたも、だ」






1年後、この世に存在していられるのは死神か、少女か。
グリアか、亜矢か。
それを選ぶのは、グリア自身。
いや、グリアは自分の持つ鋭い死神の鎌をもって、それ以外の道を切り開くのかもしれない。