だが、リョウの話はまだ、終わりが見えない。

「ちょ、ちょっと…それって、どういう……………グリア、あの人って……」

亜矢の心を察したリョウは、少し声を大きくして言い聞かせる。

「最後まで聞いて、亜矢ちゃん!」

だが、亜矢の意識は半分、別の所にある。

(死神は、永遠の命を手に入れる為に、あたしを……?)

だとしたら、自分はその目的の為に生かされたのだろうか。
リョウは話を続ける。

「だけど、365日経った日にその魂を食べなければ、長期間力を消費し続けた反動が全て死神自身の体にふりかかり、死神は消滅してしまうんだ」

これが、禁忌の儀式に失敗した死神の末路だというのだろう。
1年後、この世に存在していられるのは

『完全なる魂を得て、生き返る事に成功した人間』
『完全なる魂を食し、永遠の命を手に入れた死神』

どちらかに一つしかない。
もう亜矢には、これ以上の話を頭で理解するのは不可能だった。

「だけど、ボクは」

急に、リョウの口調は力強くなった。

「もし、グリアが一年後に亜矢ちゃんの『生』を選んだとしても、ボクは彼を消滅させたりはしない。自分の全ての力にかえても、絶対に……!」

呆然とした亜矢の意識の中でも、今、理解出来た事があった。
リョウが人間界に来た理由。
それは、グリアを監視する目的でも、邪魔をするつもりでもない。
グリアを『救う為』なのだろう。
天使と死神の二人がどんな関係であって、どんな繋がりがあるのかは分からない。
少なくともリョウの方からは、危険な儀式を成し遂げようとするグリアを『近くで見守る』といったような、暖かい感情が感じられる。
やっと、亜矢がその口から小さく言葉を発した。

「じゃあ、もし、死神が自分の『生』を選んだら?」

魂を食われる事、それは人間にとって『死』を意味する。

「その時は、全力で亜矢ちゃんを救うよ。でも、そんな事にはならないと思うけどね」

リョウはそう言ってようやく、柔らかくいつものように笑った。
何の根拠もない事ではあるが、どこか信用できる気がする、不思議な彼の言葉の力。
ああ、やっぱり彼は天使なんだなあ…、と亜矢は思った。
『亜矢もグリアも死なせはしない』というのが、リョウの考えなのだろう。
そして、それはきっとグリアも同じ。
ここでリョウの話は終わった。

「話してくれてありがとう、スッキリしたわ」

と亜矢は言うが、どこか晴れない顔をしている。
そして、リョウもまた———。

(………ボクの本来の……までは話す事は出来ないけど、ここまでで……ごめんね)

これから先と亜矢の事を思い、リョウは心でそう囁くしかない。