春野(はるの)亜矢(あや)、16歳。マンションで一人暮らしをする、ごく普通の女子高校生。
彼女の住むマンションに今日、お隣さんが引越して来た。

「よお、今日からよろしく頼むぜ」

亜矢の部屋に挨拶に来たお隣さんの第一声が、それだった。

「は、はぁ……春野です。こちらこそ、よろしく」

初対面なのにその馴れ馴れしくて乱暴な口調に亜矢は唖然としたが、その相手の容姿を見て一瞬、思考を止めた。
銀色の髪に、紫の瞳。整った綺麗な顔、亜矢と同じくらいの歳の少年だった。
たいていの女子なら一目惚れでもしそうな、いわゆる美少年。
目つきは鋭く、どこか相手を見下しているかのような。いわゆる、立場が上の目線である。
不思議なのは、春なのに、黒いコートを着ていたのだ。 

「今日は挨拶までだ。じゃあまたな」

それだけ言うと、その少年はドアから離れ、自分の部屋の方へと向きを変えた。
亜矢は玄関で立ち尽くしていたが、ふと何か思い出したかのように少年が振り返った。

「それとあんた、もうすぐ死ぬぜ」
「はッ!?」

亜矢は訳も分からず、ついそんな声を出した。

(な、何、何なのかしらあの人は!?)

それに、挨拶に来たはずなのに、あのお隣さんは自分の名前すら名乗っていない。
亜矢は相手が部屋に入ったのを確認すると、自分もその人の部屋の前に立つ。
ドアの前に立ち、お隣さんの表札を見て名前を確認する。
表札には、『死神』と書かれていた。

「………コレ、本名なのかしら………」

冗談にしか思えないその名字に、亜矢はさらに疑問を膨らませた。
それが、亜矢と死神との出会いだった。