「行ってきます…!」

大きな声で宣言した私に、にこやかに微笑むお母さん。

「行ってらっしゃい」

私はお母さんの声と同時に、玄関を飛び出した。
私、七瀬和歌。中学二年生です。
春になって、新学期が始まってもう二週間たつ。
周りはグループなどが続々と作られているけれど、地味な私はいつまでたっても新しい友達なんかできない。
けど、いいんだ。
だって私は、「人嫌い」だから。

「おはよ~」

「あ、おはよ。ねえねえ昨日のドラマ見た?」

教室は今日も、楽しそうな声が響いています。

「出席とるぞー」

先生の声に、だらだらとみんな席に着く。
順番に名前を呼ばれては、まっすぐ手を挙げて「元気です」と答えるのが、いつもの日常だ。

「次……七瀬!」

「っ…あ、はいっ…!」

真っすぐ手を挙げて、元気ですと答えると、先生はさっと視線を下げ、次の人の名前を呼ぶ。
こんな風に私は、人としゃべることも、目線を合わせることですら、怖いと感じてしまう。
こんな自分を治したくても、私にはどうすることもできず、、
伊達メガネを使っています…!!(相手の顔を見なくていい)
もし誰かに伊達メガネを使っていることがばれたらきっと面倒なことになるってわかっていても、
やっぱり私は伊達メガネがないと目線を合わせることができない。
学校で浮かないためには、人との接触が必須なのです……。

「ただいま…っ」

家に帰ると、いつもより家は明るくて。

「おかあ、さん…??」

リビングをのぞいてみると、フクザツそうな顔をした、お母さんが座っていたんです。

「和歌…ちょっと、座ってくれない?」

お母さんは、サッと目の前のいすを指さして、そしてすぐもとにもどった。
私は言われた通りに椅子に座り、お母さんと向かい合った。

「…もうお父さんが居なくなって、五年たつでしょう」

「…うん」

お父さんは、五年前にこの世を去った、私の実の父親です。

「…お母さん、お父さんの分まで、仕事頑張ったの。…それで、大きなプロジェクトが提案された。
 お母さん、海外に行くことになったの」

「えっ…?」

急な告白に、私は思わず体を硬直させる。