その時点で、時刻は午後六時半。
指定された七時半まで、ゆっくり準備している時間さえもない。

慌てて部屋着からそれなりの服に着替えて、髪の毛も外出できる程度には整えて。


それで、家を飛び出してきた。



「前髪跳ねてるけど、もしかしてここまでダッシュしてきた?」

「……まあ」


時間のない中で必死で整えてきたのに、前髪跳ねてる、なんてデリカシーに欠ける言葉をぶつけられ。

隠すように、指摘された前髪を手ぐしで梳かしながら返した返事は、思ったより素っ気なくなってしまう。




「俺のために走ってきてくれるなんて、案外可愛いとこあるじゃん?」

「からかわないで」

「はいはーい」



茶化すような口調の中原を、睨みつける。


そういえば中原って誰に対してもこういうヤツだった。誰彼構わず自分の輪の中に引き込んで、いつのまにかペースを狂わされる。


だけど、それでいて、彼の周りはいつだって笑顔で溢れてるんだ。ときどき、中原は魔法使いなんじゃないかって思う。




「早速しますか、線香花火」




中原が手に持ってちらつかせたのは、大量の線香花火の袋。きっと、もともとはスーパーで売られているような花火セットの一部だったもののはずだ。




「なんで線香花火一択なの?」



普通は、他の手持ち花火を楽しんでから、締めに線香花火じゃないだろうか。

少なくとも、私が知ってる線香花火はそういうものだ。




「昨日、部活の連中と花火したんだよ」




中原の言葉に、頭のなかに坊主頭の集団を思い浮かべる。