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「お、ほんとに来た」


西の空の端には、まだ夕焼けが残っている。
頬を撫でる生ぬるい風は、昼間のうだるような暑さの名残だろう。

自転車で五分ほどの近所の河川敷で「よっ」と軽く手を挙げたのは、クラスメイトの中原大和(なかはらやまと)だった。



「自分が誘ったくせに」



『ほんとに』って言い方は、ヘンだ。
私は、あんたがここに来いって言ったから、来ただけなのだから。



「だって、まじで来てくれるとは思わねえじゃん」



いきなり誘ったから、と中原は苦笑いする。





――――たしかに、いきなりだった。



8月31日、夏休み最終日の今日。

自室のベッドでごろごろしながら漫画を読んだり、動画サイトのおすすめに出てくる動画をひたすら再生したり、いわゆる “暇つぶし” をしていたときのことだった。

不意をつくような、メッセージアプリの通知音。
ポコンと響くそれが告げたのは中原からの着信で。




〈 線香花火、しねえ? 〉




開いたトーク画面には、たったそれだけ。




「は……?」



あれほど間の抜けた声を出したのは、後にも先にもこのときだけだろう。