私は幼い頃から心臓の病気を患っていた。

その癖してなんの才能も持ってないから私はみんなに優等生ぶっていつも作り笑いを顔に浮かべた。

みんな私に憧れの目線を向けていて、
みんな私がどんな病気か知らないで、
いつも一緒に笑ってくれる。

この日々がいつまでも続けばいいのに、という甘い想いを浮かべる。

みんなを騙している罪人なのに。

ある時、私はテストを1枚落とした。

見られた。

赤点ギリギリの点数が書かれた紙切れが風に飛ばされてひらりひらりと舞い降りる。

「え、なにこれ」

その日から私の生活は大きく変わった。
当たり前だ。どうしてこんなことになったんだ、なんて思えない。

全て私の責任。どうして騙してたんだろう。

引き出しに入ったテストの裏にいろんな字体で劣等生だとか詐欺師だとか馬鹿だとか

ついに耐えられなくなって屋上へ向かったいつかの早朝。

埃だらけの階段を迷いなく上がり、フェンスの向こう側の景色をただじっと眺める。
ここからだと逝けるのかな、なんて。

私は朝の自習時間が始まる頃には既にいないのだ。

迷いなくフェンスをよじ登ろうとしたその
時。

屋上と校舎を繋ぐ扉が奇妙な音をたてて開く。


ちらっと目で追うと、そこには凄くキツそうな顔で突っ立っていた人が長く青い横髪を静かに揺らしていた。

私が優等生ぶっていた頃の見た目そっくりだ。
私は瞬時に声を掛けた。

「あの…すみません」

すぐに返答はきた。

だけども私に話せることなんて無い。
そうだ。ドーナツをあげよう。

せっかく作ったんだし、いい機会だ。

本当は渡したく無いけど、レシピも一緒に。

渡したら飛ぶ。そう決めていた。

もう余命も少ないんだし、大丈夫。


ふと考えた。
こんな早朝になんの意味もなく屋上へ来る人なんて早々居ない。

まさか。

私と同じことをしようと思っているのだろうか。
こんな思いをしてほしくなくてとっさに言葉にした。


「死にたければもっと自分に優しくしてあげてください。」


そっか。自分の言葉で思い出した。
自分に優しくしてなかったから、こんな風に追い詰めてばっかなんだ。

でももうわたしには考える余地もない。
ずっと決めていた。ずっと嫌な思いをしたくないなんて思っていた。

彼女が再び屋上の扉を開けた。
伝わってくれてるといいな、なんて思いながらもフェンスに力を入れてよじ登る。

結構高いんだなぁなんて当たり前のことを考えながら呟いた。

「来世では強くなれますように。」

そして突然心臓が暴れ出した。苦しい。

痛みがどんどん広がる。

飛び降りなきゃ、

飛び降りなきゃ、

飛び降りなきゃ。

どんどん欲望が強まる。

頭が良くなりたい、優しくなりたい、強くなりたい。全てがうまくいくようにしてほしい。

そう思い私は一歩前にでる。


明日にはきっと素敵な1日が舞い込んでくるだろう。