あの日の早朝。
私はいつものように学校の屋上へ向かう。
普段は立ち入りは禁止されており、屋上へ続く階段は段ボールや文化祭で使った道具などが重ねられ物置と化している。
私は慎重に階段を登り、屋上へとつながる扉を開ける。
…人がいた。こんな早朝に屋上へ来る人なんて私しかいない。
見た目からしてこの人は年上。私に何か用なのか?それとも偶然か?
そんなことどうでもいいか、と思いながら私はその人を通り抜けた。
通り抜けた瞬間、その人から甘い匂いが漂った。
近くの店で買った物だろうか?この人はドーナツを片手に屋上のフェンス越しに見える景色をぼーっと眺めてい
「あの、すみません」
彼女は突然振り返ってそう言った。
いきなり話しかけられて私は少し動揺したがすぐさまに心を落ち着かせ答えた。
「何でしょう?」
「あの、その、ドーナツ…いりますか?」
その人はそばにあった袋からひとつピンクの色のチョコがかかったドーナツを差し出した。
「えっ、もったいないですよ。ちゃんと自分で食べましょうよ」
つい少し強めの態度で言ってしまった。
だが彼女は声を出さず、まっすぐな瞳で私を見つめていたのでなんとも言えず、無言で受け取った。
私は初対面の相手にドーナツを渡すなんてどういう思考なんだろうと疑問に思った。だが私はせっかく貰ったドーナツを無駄にできなかった。
ひと口、食べてみる。
普通のより、というか、有名なお店の物よりも美味しい気がした。彼女はどんな店で買ったのか、少し気になり聞いてみる。
「このドーナツ、どこで買ったんですか?」
「…自分で作りました。」
「え、すごい…」
こんなものを自分で作れるなんて。そもそもドーナツ自体作るのは難しいはず。
私は驚きすぎて呆然と立ち尽くす。彼女は少し微笑んでこう言った。
「簡単に作れますよ、こんなの。私は親が忙しくて私がご飯を作ってるんです。慣れればドーナツくらい朝飯前って感じです。あ、レシピ、あげます。」
そう言って彼女からドーナツの挿絵が描かれたレシピのメモをもらう。
「有難う御座います。いつか作ってみます。私はそろそろ戻らなきゃなので、では。」
そう言って私はさっさと戻って自習しようとした。
「あの。」
彼女のその一言に呼び止められる。
私が返事をする前に続けて話し出した。
「死にたければもっと自分に優しくしてあげてください。」
意味のわからない言葉。私は何も言わずにさっさと戻った。
「どうして。」
泣いた。沢山泣いて。
名前も知らない彼女から貰ったドーナツ
名前も知らない彼女から貰ったレシピ
名前も知らない彼女から貰ったことば
全て思い出してしまう。
いつぶりだろうか、こんなに優しくしてくれたのは。
みんなから冷酷野郎だとか気持ちの悪い青髪だとか、「劣等生の癖に」と言われ続けた言葉。
だから私はテストの点も性格も人間関係も上げて上げて。全て完璧になったけれど、みんなはその上を求める。
「もっと頑張れるでしょう?」
その言葉が脳裏に浮かぶ度に私は毎日屋上に行って翔ぼうとする。でも勇気が足りなくて出来ない。
彼女は。優しかった。
偽りのない微笑みが瞼の裏に浮かんでまた涙が一粒零れ落ちる。
「よし、完璧っ!」
私は髪の毛をひとつに結い、朝ご飯を食べた。
私は早朝、屋上へ来てドーナツを片手に屋上のフェンス越しに見える景色をぼーっと眺め、あの日の事を思い出す。
ガチャと音が鳴り響き、屋上の扉が開く。
私は声をかけた。あの日の、あの人のような。
「ドーナツ、いりますか?」
私はいつものように学校の屋上へ向かう。
普段は立ち入りは禁止されており、屋上へ続く階段は段ボールや文化祭で使った道具などが重ねられ物置と化している。
私は慎重に階段を登り、屋上へとつながる扉を開ける。
…人がいた。こんな早朝に屋上へ来る人なんて私しかいない。
見た目からしてこの人は年上。私に何か用なのか?それとも偶然か?
そんなことどうでもいいか、と思いながら私はその人を通り抜けた。
通り抜けた瞬間、その人から甘い匂いが漂った。
近くの店で買った物だろうか?この人はドーナツを片手に屋上のフェンス越しに見える景色をぼーっと眺めてい
「あの、すみません」
彼女は突然振り返ってそう言った。
いきなり話しかけられて私は少し動揺したがすぐさまに心を落ち着かせ答えた。
「何でしょう?」
「あの、その、ドーナツ…いりますか?」
その人はそばにあった袋からひとつピンクの色のチョコがかかったドーナツを差し出した。
「えっ、もったいないですよ。ちゃんと自分で食べましょうよ」
つい少し強めの態度で言ってしまった。
だが彼女は声を出さず、まっすぐな瞳で私を見つめていたのでなんとも言えず、無言で受け取った。
私は初対面の相手にドーナツを渡すなんてどういう思考なんだろうと疑問に思った。だが私はせっかく貰ったドーナツを無駄にできなかった。
ひと口、食べてみる。
普通のより、というか、有名なお店の物よりも美味しい気がした。彼女はどんな店で買ったのか、少し気になり聞いてみる。
「このドーナツ、どこで買ったんですか?」
「…自分で作りました。」
「え、すごい…」
こんなものを自分で作れるなんて。そもそもドーナツ自体作るのは難しいはず。
私は驚きすぎて呆然と立ち尽くす。彼女は少し微笑んでこう言った。
「簡単に作れますよ、こんなの。私は親が忙しくて私がご飯を作ってるんです。慣れればドーナツくらい朝飯前って感じです。あ、レシピ、あげます。」
そう言って彼女からドーナツの挿絵が描かれたレシピのメモをもらう。
「有難う御座います。いつか作ってみます。私はそろそろ戻らなきゃなので、では。」
そう言って私はさっさと戻って自習しようとした。
「あの。」
彼女のその一言に呼び止められる。
私が返事をする前に続けて話し出した。
「死にたければもっと自分に優しくしてあげてください。」
意味のわからない言葉。私は何も言わずにさっさと戻った。
「どうして。」
泣いた。沢山泣いて。
名前も知らない彼女から貰ったドーナツ
名前も知らない彼女から貰ったレシピ
名前も知らない彼女から貰ったことば
全て思い出してしまう。
いつぶりだろうか、こんなに優しくしてくれたのは。
みんなから冷酷野郎だとか気持ちの悪い青髪だとか、「劣等生の癖に」と言われ続けた言葉。
だから私はテストの点も性格も人間関係も上げて上げて。全て完璧になったけれど、みんなはその上を求める。
「もっと頑張れるでしょう?」
その言葉が脳裏に浮かぶ度に私は毎日屋上に行って翔ぼうとする。でも勇気が足りなくて出来ない。
彼女は。優しかった。
偽りのない微笑みが瞼の裏に浮かんでまた涙が一粒零れ落ちる。
「よし、完璧っ!」
私は髪の毛をひとつに結い、朝ご飯を食べた。
私は早朝、屋上へ来てドーナツを片手に屋上のフェンス越しに見える景色をぼーっと眺め、あの日の事を思い出す。
ガチャと音が鳴り響き、屋上の扉が開く。
私は声をかけた。あの日の、あの人のような。
「ドーナツ、いりますか?」