「ご自分のエゴを通す為に、十四の小娘を餌として使われる方が綺麗事を仰って、説得力かありますか?」

 にっこり微笑めば、流石に目が泳ぎましたね、陛下。思わず笑みに威圧感を載せそうでしたよ。

「自覚されましたら、ちゃちゃっとやって下さい。いざとなったら、こちらで処理致しますので」
「くっ、痛い所を突くな! 年に似合わぬ事を言うな! 本当に良いのだな!?」
「良いです、良いです。ただし誓約を壊すのではありません。誓約という錠前を開けるような心づもりで、紋にゆっくりと己の魔力を馴染ませるように低出力で魔力を流して下さい。今後必要になる事ですから、こういう魔力操作はしっかり練習して下さいね。決して一気に魔力を流したり、壊すような気持ちで行ってはなりません。それがコツです」

 解除されて廃人になるとしたら、誓約を壊す心象で魔力を紋に向かい、一気に流した場合です。解除の反動が、血流が多く流れる脳や心臓に出てしまいます。

 下手くそか、解除に不慣れな魔力の少ない者ならば、無理矢理やらずとも廃人になるかもしれませんね。

 しかし陛下と丞相は、覇気や威圧をやりたい放題垂れ流してらっしゃいます。コツを心得ていれば、問題ありません。

 もしかすると誓約魔法を扱う方々は、解除のコツを知らないか、何者かが故意に秘匿したのかもしれません。今世では既に、ジャオという部族もほぼ滅びておりますし。

「聞いていた方法と違うぞ!? 本当にそれで良いのか!?」
「壊そうとするから廃人になるのです。もちろん誓約した者との魔力差が大きい方が良いので、陛下は解除にうってつけですよ。ほらほら、早くやってみて下さい」
「軽いな!?」
「陛下、ここです」

 私と陛下が掛け合い漫才をしている間に、丞相がジャオの青年の服をはだけさせました。心臓のあたりに赤黒い紋を見つけ、指差します。誓約の種類によって使う墨が違うのですが、赤黒いとは。一体、何を使っているのだか。

 それにしても丞相? 私、一応うら若き乙女なのですが、わかっておられますか?

 と内心でツッコミを入れつつ、しっかり体は確認します。()()()()()通り、体の右半分に火傷の痕がございます。探し人は、この者で間違い無さそうです。

 それにしても……鍛えられた体躯には、何ともそそられますね。眼福です。

 火傷痕に悲しみそうな部下が一人おりますから、痕をできるだけ薄くなるよう、色々と生薬を塗りたくりましょう。ついでに割れた腹筋を触りたい放題です。ふふふ。

「丞相は傍観か!? やはり俺がやるのか!? 小娘は男の裸を、食い入るように見すぎであろう!? 顔がニヤついておるぞ!?」
「まあ、ついうっかり。目に眼福なので、早くして下さい」
「眼福と言うでない!」

 などとやっている間に陛下は屈んで紋に触れました。そうですよ、人間諦めが肝心です。そうそう、魔力を流しで下さいね。

 私もその紋に触れます。紋の性質と、どれくらい魔力が流れているのかを感じ取る為ですよ。陛下は何を勘違いしたのでしょう? 睨まないで欲しいものです

 陛下の魔力量なら、この誓約でも問題は無さそうですね。

「陛下。魔力はもう少し抑えて流して下さい。もっとゆっくりです」
「チッ。これ程に少なくて良いものか!? 大体、こちらの方が調整が難しいのだぞ!?」
「魔力量の多い方は、少ない出力の方が難しいようですからね。ふふふ、まるで……」
 ()()()に教えていた時のよう。

「まるで?」
「……下手っぴです」
「何と!?」
「ほら、多いですよ。調整して下さい。強弱をつけず、同じ調子で魔力を注ぐのです。この紋をつけた者と陛下との魔力差は、それほど大きいのです。焦らなければ直に……」
「むっ、カチッと音がした?」
「ならば終いです。お疲れ様でした。ほら、紋も消えましたよ」
「おぉ、こんなに簡単に……」

 陛下は驚きと解除の手応えに、興奮されたご様子。

「それだけ陛下の魔力量が、他者と比べてかなり多いのです。子が欲しいなら、今の感覚をお忘れなきよう」
「そうか、子が……ん? どういう意味だ?」
「ああ、そういう意味ですよ?」

 魔力の差を埋めて、馴染ませる作業がありますからね。

 それより、そろそろ差し入れを確認したいです。お腹が空きました。魔力を使って疲れました。お菓子食べたいです。しょっぱいのと甘いの。両方あれば最高ですね。

「すっかり興味を無くしたように流そうとするでない! 詳しく!」
「嫌です、興味ありません。お腹空きました。それに時期尚早です」
「詳しくお願いします」

 むぅ、しつこい。陛下の次は、成り行きを興味津々で観察していた丞相も参戦ですか。流石に不機嫌になりますよ。お菓子食べたいです。