「引き換えにお肉を寄こせと?」
「ガウッ」
「半分なら良いでしょう。
こちらに取り置きした新鮮な肝もいかがです?」
「ガウッ」

 あら、今度は全て了承するようです。 

「それにしても、あなたはどこの宮の飼い猫ちゃんですか?」
「ウガウガウッ」
「飼われていないと?」
「ガウッ」

 うーん……戦闘態勢では毛が硬く尖り、黒虎に蝙蝠のような翼……そこそこ好戦的な性格……確か太夫の時に清国の書物をいくつか豪商のご贔屓さんに見せて頂いた書物がございましたが、こんな妖について書かれてあったような?

 しかもここは四神を模したり象徴とする宮ですから……しかしまさか……。

__キュルルルル。

「あら」

 お腹の虫が自己主張してしまいました。
心なしか哀れみの視線をつぶらな瞳から感じるような気がしなくもありません。

「そうですね、食べましょう」
「ガウッ」

 お肉も茹で上がりましたし、と鳥足を持って引き上げ、小刀でお肉を突き刺して引き上げれば、芳しきお肉の香り。

 側にあった岩の土埃を払い、魔法で水を出して軽く綺麗にしたら肝とそれを置きます。

「どうぞ」
「ガウッ」

 同じように小刀を使って取り出したお肉には調味料を振りかけてから1度表面を焜炉で炙り、表面をカリカリに焼きます。

 いただきますをしてから、パクリ。

「んふぁ〜、美味しい〜」
「ガウッ」
「ふふふ、ありがとうございます」
「ガウ?」
「あなたのお陰で味気ない食材が美味しく味つけできましたもの」
「ガ、ガウッ」

 子猫ちゃんは照れてしまったかのようにそっぽを向いて食べ始めてしまいましたね。
天邪鬼なのでしょうか。

 そこからは互いに無言で(むさぼ)ります。
この調味料、美味なり!

 鳩が半分ずつだったので、もちろんすぐに食べ終えてしまったのは残念です。
成長期ですからね。
物足りません。

 もちろん骨と足は子猫ちゃんに差し上げています。

「さてさて、せっかくですからこの瓢箪のあった場所に案内してくれると、もっと美味しい何かができるかもしれませんよ?」
「ガウッ」

 案内してくれるみたいですね。
意気揚々と先陣を切り、尻尾をフリフリしていてとても可愛らしいです。

 離宮の中は長らく廃されていただけあり、かなり荒れ果てております。

 子猫ちゃんは慣れた様子で進んで行きます。
ここを寝床にしていたのでしょうか。

 そうして奥まった場所に辿り着きましたが、朽ちかけの階段を上ったので調理場ではなさそうですね。

「養蚕場、でしょうか」

 (かいこ)を育てる蚕箔(さんぱく)やそれを置く蚕架(さんか)という棚らしき残骸がちらほらと。

 確かその昔、絹糸を作るのは後宮の中でも一握りの高貴なる方々に割り当てられた仕事の1つとされていた時代があったと聞いた事があります。
しかしそれも廃れて失われ、今ではかつてのような上質の絹を復活させる事が難しくなりました。

 物を復活させる事はこの世界の蚕の特徴として手間ではありますが、一応可能です。

 しかし過去に後宮が関わっていたせいで、色々と面子的な方面から外の商人達では流通が難しい商品の1つとなっているのが現状。

「あら、あんな所に七輪?
それにあれと同じ陶器でできた瓢箪?」
「ガウッ」

 ふとこの場に不釣り合いな品々が目に止まりましたが、なるほど。
ここから持ってきたと言いたいようですね。

 埃まみれのそれを手に取り、軽く振ればチャポチャポと音がします。
栓を抜いてみれば、芳しいお酒の香り。

 お酒、七輪、辛味調味料……主は呑兵衛だったのでしょうか。

 クンクンと香りを嗅いで手の平に少したらしてペロリ。

「日本酒のような味わいですね。
それに劣化していない」
「ガウッ」
「あ、駄目……」
__バチャバチャ。

 瓢箪を持った手に飛びつかれて床に幾らかこぼしてしまいます。

「ガウガウッ」
「まあ……あなたも呑兵衛の口ですか?
何か器に入れましたのに……」

 子猫ちゃんは床の水溜りをペロペロしてしまいました。

 この子は恐らく妖の類でしょうから、お酒を呑むのは問題ないと思います。
猫に蝙蝠の翼のついた動物は存在しないはずですから。
ですが埃を被った床は、さすがにばっちいですよ?

__カタン。

 ん?
何か下で物音が?