あ〜。
 あー、だめだ。
 イケメンすぎる。
 私はもう帰りたい。

 めまいがしてきそう。

 帰ろうっ!
 そうだ、帰ろう!

「……あ、あのっ!」

 私は「ごめんなさい、帰ります!」とイケメン王子様に言おうと思った。

「さあ、行きましょうか? 僕があなたの観たい映画を当てて見せますよ? 僕の観たい映画と同じ気がしてますが」

 イケメン王子さまはにっこり蕩けるような微笑みを浮かべた。
 私に向かって笑ってる。
 それは晴れやかで健康的な明るい笑顔で――、私の胸がきゅうんっと甘くうずいた。

 ええっ。
 ええっ。
 なになに〜。
 くらくら〜。
 だっ、だめだ。

 私の思考回路《こころ》は完っ全にイケメン王子様にまるごとすっかり奪われていた。

 体の関節が緊張でギクシャク錆びた機械みたいになりながら、私はイケメン王子様と映画館のチケット売り場に向かって行った。

 私の、恋愛経験値まったくゼロ女子の横に、難易度高しの素敵なイケメン王子様がいる。

 くらくら〜。
 私、今日倒れちゃうかも。

 胸が痛い、でもぽわぽわと天にも昇る心地よいあったかい気持ちが私を包み込んでる。

 間違いない、身分不相応の幸せすぎにて死ぬに違いない。