「面白かったあ」
「そうですね。面白かったあ」

 私は伸びを一つしたかったが隣りの王子様を見てやめにする。
 そんな仕草すら彼の前でするのが恥ずかしくて我慢した。

 映画を観ている間も私は右側に座るイケメン王子様が気になっていた。

 音楽も最高なエンドロールまでしっかりと映画を観終わってから、私とイケメン王子様はそのまま映画館内の映画の関連グッズが置いてあるコーナーに来ている。

 そういやさっきまさかと思ったけど私の右側に座ってくれたのはバターソルトポップコーンとかを私が右手を伸ばして食べやすくするため?
 そこまではまさか、ね。

「これから良かったらカフェで映画の感想の語り合いなんてどうですか? あと。笑われるかもしれないけど、僕は北条さまともっと一緒にいたいから。あなたさえ良かったら、その後はあちこちショップ巡りもしませんか?」

 今度こそ私は倒れるわ。
 これは夢なの? もしやだまされてるの?
 もう、だまされていたってかまわない。

 私、イケメン王子様に……って、あれ?

「ごめんなさいっ!」
「だめですか?」

 イケメン王子様は悲しげにしている。

「あっ、あのっ。……違うんですっ! 私、私はまだあなたの名前を恥ずかしくて聞けなくて。あなたの名前を聞いてなかったんです」

 そうなのだ。
 こんなに好きになってしまったのに私はイケメン王子様の名前を知らなかったのだ。

「プッ……。はははっ」とイケメン王子様は吹き出し笑いだした。
 
 私はそんな彼に見惚れていた。

 笑顔が爽やかでほがらかで素敵すぎて。
 私はこの人の笑顔や笑いかたがとても好きだ。
 会ったばかりなのにドキドキするのにホッとする。

「僕が名前すらイズミさんに教えてなかったんだなんて」

 イズミさん?
 ああそうか。
 ペットショップでリュウリュウのご飯を買う時に作ったポイントカードにフルネームを書いたっけ。

『イズミさん』って。

 イケメン王子様に、名前を呼ばれて。
 私は、ウットリとしてしまった。
 私の心は宙に浮いている。

 空をぐるぐる飛び回りたいぐらいに、うきうきとして舞い上がっていた。