日曜昼、カフェ店内
お客さんがまばらにいる店内で、周りにお客さんが少ない席に2人で座る純と悠征

四角い机の四方向に一つずつ置いてある椅子の隣り合う席に座っている


純「き、緊張するね……」

悠征「あぁ……」


2人はそわそわとした様子で誰かを待っている


(回想)
屋上、十一話の続き
純、理沙、悠征の3人が昼ごはんを広げている


純・理沙「相方とのオフコラボぉ!?」


身を乗り出し、悠征にむかってそう叫ぶ2人


悠征「あぁ……エバスタは永遠と星月、コンビで売ってるからいわゆる“関係性オタク”ってのがいて、オフコラボして欲しいって声が前々からずっとあんだよ」

理沙「ってかあんたそれ、相方と一回も会ったことなかったってこと!?」会おうって話出なかったわけ?

悠征「ねぇよ、悪かったな」何回も出たけど全部断った

理沙「マジか……。星月に同情するわ。よくこんなのの相方やってるね」

純「ま、まあまあ。で、癖の抑え方がわかったからオフコラボに踏み切ろうってことだよね?」

悠征「あぁ、俺さえ頷けばすぐにでも打ち合わせで会おうってなると思う。
……いけると思うか」


言いながらも、不安そうに両手を握って俯く悠征
それを見て、純と理沙は一瞬顔を見合わせてから、すぐに口を開く


純「この調子ならいけると思う!」

理沙「ま、大丈夫なんじゃない?」

悠征「そ、そうか?」


2人の答えに、パッと表情を明るくさせる悠征
そこに、理沙が思いついたように提案をする


理沙「というか、不安なら純も連れていけばいいじゃん。
最悪純の手握ってれば癖は出ないわけだし」

悠征「確かに……純、いいか?」

純「うん、もちろん」

悠征「それじゃあ……俺たちはたまたまクラスが一緒だったVtuberと絵師ってことにしよう。
オフコラボの時のイラストを頼むことにしたって言えば、いても違和感ないだろ」

純・理沙「賛成」

(補足)(悠征がここで純と付き合っていることを隠す方向に提案したのは、違和感をなくす理由が半分と、ネット上では星月含め全員に、永遠は「俺は特定の1人を好きにはならないから安心しろ」というムーブを行なっており、それが唯一の居場所だったことから、それを崩すのが怖かったという理由が半分ある)

(回想終了)



純「星月くん、どんな人なんだろう」

悠征「裏で話す時とかは配信上とそんな変わんねぇと思うけど」

純「じゃあ明るいムードメーカーみたいな感じ?」

悠征「だな。あとポンコツ」

???「誰がポンコツだって?」


純と悠征が緊張しながらも話を繋げていると、いつの間にか悠征のすぐ後ろに男の子(星月。本名“佑月(ゆづき)”)が立っており、悠征の方にポンと手を開いた
その声と仕草で2人の視線が一気に佑月に集まると、佑月は人懐っこい笑みでニコッと笑い、悠征を覗き込んだ


佑月「よ、お前が永遠だな?なんかすっげーイメージ通り」

悠征「……星月」


緊張と急に現れた驚きとでそれだけしか言えない悠征を特に気に止めることなく、佑月はすぐに顔を上げて純に向き直った

佑月「で、君が永遠の言ってた隅っこ先生で合って———」


純の顔を確認した佑月の言葉が止まる


純・悠征「?」


急に言葉も動きも止まり、笑顔も消えてただただ驚いたような表情になった佑月を不思議に思う2人
佑月はゴシゴシと目を擦り、見間違いじゃないか確かめるような仕草をした後、


佑月「…………純ちゃん?」


知らないはずの純の名前を呼んだ


純「えっ」

悠征「お前、なんで」

佑月「やっぱそうだよね!?」


驚いて声を上げた2人の反応を見て確信した佑月が、弾けるような笑顔になって純に向かって身を乗り出した


佑月「俺俺、小3まで隣に住んでた佑月!」


佑月の言葉に、純は昔を思い出す


(回想)

幼い佑月「純ちゃん!」


実は純と佑月は幼い頃、小学3年生まで隣の家に住んでいた幼馴染だった
2人は仲が良く、家でも学校でも佑月が純について回るという形でずっと一緒にいた

そして、その遊びの一環として———


佑月「ねえねえ純ちゃん。わんちゃんごっこやろ!」

純「いいよ!じゃあ、そこにゴロンして!」


純に言われ、床に寝転がる佑月


純「何されても動いたらダメね」

佑月「うん」


大人しく寝転がったままでいる佑月に、軽くこしょこしょとくすぐる純


佑月「うっ……く、くすぐったい……!」

純「ここかな〜?それともここかな?」

佑月「うぅ〜!」


純の手が、首元、脇、お腹とあちこちをくすぐっていく
佑月はその攻撃にひたすら動かないように耐える
そして、しばらくこしょこしょとした後、純がパッと手を引いた


純「はい!おしまい!」

佑月「僕、上手にできた?」

純「うん!ゆっくんいいこいいこ!」

佑月「えへへ〜」


起き上がった佑月を、犬にやるようにたくさん撫でて褒める純と、それを喜ぶ佑月

———2人は“わんちゃんごっこ”をしていたのだった。

(補足)(純がたまにスイッチが入ったように悠征にSっ気を出していたのはここから来ている)

(回想終了)



純「…………えぇえっっっ!?!?ゆっくん!?!?」

佑月「うそー!まさか純ちゃんが隅っこ先生だったなんて!」

純「ゆっくんこそ!そんなかっこいい声になっちゃって!」

佑月「あはは、あの頃は女の子と間違えられるくらい高かったもんね。これが声変わりの成果よ」

純「すごい!」

佑月「褒めて褒めて〜」


小さい頃のように、自然に頭を差し出す佑月
純もまた、自然にその頭に手を伸ばしていた


純「よしよし、良い子良い子……って、ゆっくん中身は全然変わってない!」

佑月「純ちゃんの前だとつい、昔の癖出ちゃうよ」

純「私もつい反射的に撫でちゃったな」


あはは、と笑い合う2人
その様子を見て、怖い顔をする人が1人
完全に置いてけぼりにされた悠征は、純が自分よりも親しげに接する男を見て焦りを感じていた


悠征「……どういうことだよ」


困惑した声に2人が反応し、悠征を見る


佑月「あ、ごめんごめん!盛り上がっちゃって。
俺と純ちゃんは昔、隣の家に住んでた幼馴染だったんだ。俺が引っ越したっきり会えなくなっちゃったけど」

悠征「…………へぇ」

佑月「永遠と純ちゃんはクラスメイトなんだって?
たまたま絵師さんがクラスメイトってすごい偶然だと思ったけど、それが純ちゃんだったなんてもう運命の域だよね」

純「本当、すごい偶然」

悠征「……それはいいからさ、早く打ち合わせしようぜ」


悠征は不機嫌と焦りが混ざったような顔を隠すように話題を変える


佑月「あっそうだった!今回の企画はね〜」


佑月は素直に頷き、悠征の隣に着席すると、打ち合わせを始めた







◾️場面転換
打ち合わせを始めてからしばらく時が経ち
カフェ店内、真剣に打ち合わせを進める3人


佑月「……って感じでどうかな」

悠征「あぁ、問題ない」

純「うん……あの、ごめん」


話し合いの中、おずおずと手を上げる純


純「ちょっとお手洗い行ってきても良い?」

佑月「ああ、ごめん!休憩なしで長時間話しちゃって!
どうぞどうぞ、ちょっと休憩にしよっか」

純「ありがと〜」


佑月が快諾すると、お手洗いに席を立つ純
佑月は純の後ろ姿をしばらく見守り、純が完全に見えなくなった後、


佑月「……本当に、運命なのかな」


と呟いた
悠征がその言葉に反応し、佑月を見る
その視線に気付いた佑月も悠征の方を向き、少し照れくさそうに口を開いた


佑月「実はさ、俺、純ちゃんが初恋なんだ。
だからすごい当時の気持ちとか思い出して……あ、これ内緒な?」


佑月が悠征にはにかむが、悠征は目を逸らす


悠征「……過去の話だろ」


「あー!お前、自分が恋愛に興味ないからって!
俺今、本当に心臓バクバクしてんだからね!?
純ちゃん今好きな人とかいるのかなあ」


佑月の言葉を聞き、過去に佑月との通話中に自分が言った言葉を思い出す悠征


(回想)
悠征「俺は恋愛とか興味ねぇし。
誰か1人を好きになることはねーよ」
(回想終了)


誰のものにもならない、誰にも心をかき乱されない、そういったVtuberとして安心できる要素のイメージを崩すのが怖くて一度は黙り込む悠征だが、しばらくしてまた口を開いて


悠征「純は———」

純「———お待たせ!なんの話?」


言いかけた悠征の言葉を、帰ってきた純が遮った


佑月「おかえりー!全然なんでもないよ」

純「そう?じゃあ続きやろっか」


純が帰ってきたことで話は中断され、再び打ち合わせで話が盛り上がるが、悠征が明らかな不機嫌と警戒の色を出しながら佑月を見ている





◾️場面転換
時が経ち、夕方、カフェ店内
打ち合わせの内容が一通りまとまった様子の3人


佑月「こんなもんかな?」

純「そうだね、良いと思う!」

佑月「よしゃ!
それじゃあもう良い時間だし、そろそろ解散にしよっか!」


その言葉を皮切りに、机に広げていた資料などを片付け、帰る準備を始める3人


悠征「純、送る」

純「うん、ありがとう」


悠征は純に声をかけ、純もそれに笑って返すが、


佑月「あ!俺送ってくよ!
久々に会えて、まだ話したいことあるし!」

純「え、でも……」


佑月からもそう提案があり、純は悠征を見る
過去の「恋愛とか興味ねぇ」発言を思い出し、陰でギリ、と奥歯を噛み締める悠征
明らかな迷いを含んだ間があったあと、悠征は


悠征「……送って貰えば」


感情に蓋をしたような表情でそう言った