彼からは、近況を知らせるメールが時々届いた。けれど遠くの大学に行ってしまった最初の年の七月七日に、電話がかかって来た。

『誕生日おめでとう』

近くに住んでいた時も、毎年忘れずに私の誕生日には祝いの言葉をかけてくれていた。しかし離れてからもそれを忘れることなく、しかもわざわざ電話をかけてきてくれたことに、ほっこりと温かい気持ちになった。

――ありがとう。

礼を言った後、なぜだかすぐには電話を切りがたくなった。そこで、どうでもいいようなことを話題に乗せる。

今年の七夕もやっぱり雨で星が見えないんだよ。
織姫と彦星は雲の上で会っているのかな。
公園の周りにもずいぶんと家が増えたよ。
来年の七夕の夜こそは晴れるといいね。
一緒に星を眺めたいね、あの時のように――。

最後の言葉に特に深い意味はなかったと、自分では思う。単純に、純粋に、そう思ったから言っただけだったはず。

私が話している間中、電話の向こうで彼がじっと耳を傾けている様子が伝わって来た。そして最後に私が口にした言葉を聞いた彼が、優しい声で短く言った。

『うん、そうだね』

たったそれだけの言葉なのに、それを聞いたら胸がどきどきし始めた。ひどく落ち着かない気分になった。

翌年からも、七月七日の夜の電話は続いた。

会話の中身は私への祝いの言葉と互いの近況くらいで、あまり変わり映えはしなかった。けれど、彼の声を耳にする度に私の心は温かくなった。毎年七夕の夜にかかってくるはずの彼からの電話を、気づけば待ちわびるようになっていた。