「ドルギア殿下、おはようございます。なんですか、その恰好は?」
「おはようございます、エルメラ嬢。あの、僕は何かおかしいのでしょうか?」
「おかしいことはありません。きちんとしています。でも、それが逆に奇妙です。人間味がありません。朝くらいは、もう少しだらしないものではありませんか?」
「だらしなかったら、良かったんですか?」
「いい訳ないじゃないですか。アーガント伯爵家の当主なら、朝でもきちんとしてください」

 お姉様に膝枕を断られた私は、あまり積極的に会いたくない人と会うことになった。
 どうしてドルギア殿下が、こんな所にいるのだろうか。お姉様と同じ部屋で寝て起きているから行動範囲が近いなんて、考えたくもない。

 よく考えてみれば、ドルギア殿下はお姉様に毎日膝枕してもらっているということになる。前世でどんな徳を積んだら、そうなれるのだろうか。
 いやでも、ドルギア殿下は今世でも徳を積んでいる人だ。つまり私も、身を粉にして人々に尽くせば、報われるということ?

「エルメラ嬢は今日も元気ですね?」
「なんですか? 藪から棒に」
「いえ、良いことだと思ったのです」
「はっ! はははっ!」
「何故、笑うのですか?」

 ドルギア殿下の笑顔に対して、私はもう笑うしかなかった。
 この男は、どうしてここまで良い人であるのだろうか。そんなに良い人だと、私が惨めに思えてくるので、やめてもらいたい。
 いや、私は悪くない。世界は私を中心に回っている――いや違う。世界はお姉様を中心に回って――いや、イルディオやトルリアを中心に回って――

「エルメラ嬢? あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。私は、偉大な存在ですからね。常人とは違う思考をしているのです」
「そうなんですか? ちょっと変な気がしましたが?」
「変なのは世界の方です」

 世界の成り立ちだとか、そういうことを考える。それはきっと、とても難しいことなのだろう。
 そもそもの話、人類とはどうやって生まれたのか、それを考える必要がある。
 ただ人類が生まれたのは、お姉様やイルディオやトルリアのためなので、理由はそこまで難しくはないだろうか。そう、それは太陽が東から昇って西に沈むのと同じで、神様が定めたこと……

「それにしても、今日はいい天気ですね、ドルギア殿下」
「え? どういう話の切り替え方で……」
「こんな日は皆でピクニックに行くのも、良いかもしれません……そうだ、ピクニック!」
「ピクニックが、どうかしたんですか?」
「木陰で膝枕をされるのは、良いものだとは思いませんか?」
「そ、そうですね……」

 ピクニックに行きたいと思うなんて、子供染みているだろうか。
 しかし、家族の時間というものは大切だ。仕事にかまけて、過程を省みないような人に、ドルギア殿下にはなってもらいたくない。
 だからこそ、ピクニックに行くべきなのだ。ピクニックは全てを解決するのだから。

「……なんだか、年々エルメラ嬢のことがわからなくなってきます。以前はもっと刺々しくはありましたが話はわかりました。態度が軟化してからは、僕の前では言動がおかしいような気がするのですが」