イルディオ・アーガントとトルリア・アーガントの兄妹は、私にとって愛するべき存在である。
 というよりも、全人類が愛するべき存在といえるかもしれない。二人は世界の宝だ。国宝とかそういうものに登録した方が良いのではないだろうか。

 私の権力を使えばそれくらいできるのだが、それはお姉様に止められてしまった。曰く、そんな下らないことに権力を使うものではないらしい。
 確かに権力者が無闇に権力を使うのは良くないことではあるだろう。そういった所にすぐに気付くお姉様の聡明さを私も見習いたい所だ。

 ちなみにドルギア殿下には、本人達もそんなことをしても喜ばないと言われた。
 しかしそんなことはやってみなければわからないことである。いくら父親だからといってわかったようなことを口にするのはやめてもらいたい。

「叔母様、先日教わった空間を操る魔法について、少し聞きたいことがあるのです」
「私は、反射魔法について聞きたいです」
「ふふ、二人とも今日もよく学んでいるようですね」
「はい。母上に聞いたのですけれど、そういうことは叔母様に聞いた方がいいと言われて……」
「お父様も、自分にはよくわからないって言って」
「そうですか」

 お姉様は、的確な判断ができる人だ。空間に操る魔法などを理解していない訳ではないだろうが、自分で使える私が説明する方が話は早い。ここで私を頼るのは、まったく持って悪いことではないだろう。
 だがドルギア殿下は、もう少し自分で教える努力をしてもらいたい。そんなことで父親がきちんと務まっているのだろうか。甚だ疑問である。

「お父様、叔母様はお母様の師匠で素晴らしい魔法使いであるっていつも言っています。尊敬するべき魔法使いだから、私も叔母様のようになりなさいって」
「……」
「叔母様?」
「いいえ、トルリアは可愛いですね」
「え? あ、ありがとうございます」

 ドルギア殿下には至らぬ点はあるものの、娘が目指すべき目標として私を提示していることは、見事だといえる。
 私も勘違いしていたと言わざるを得ない。このエルメラが、自分の失敗を認めよう。ドルギア殿下は、父親としてそれなりにやれているようだ。

「あ、イルディオも可愛いですからね?」
「叔母様、ありがとうございます。でも僕は、可愛いよりもかっこいいと言ってもらいたいです」
「あなたはかっこいいですよ、イルディオ」
「えへへ、ありがとうございます」

 まあイルディオやトルリアも、ドルギア殿下のことは慕っているようだし、やはり今からお姉様との仲を引き裂くなんてできないだろう。
 こういう風に思えるようになったのは、間違いなく目の前にいる二人のお陰だ。ああ二人は、なんと可愛いのだろう。やはり国宝に登録しておいても、損はないのではなかろうか。