「まあ、堅苦しい話ばかりでは面白くないでしょうし、早速実践と行きましょうか」
「魔法を見せていただけるんですか?」
「どんな魔法ですか?」

 エルメラの言葉に、子供達ははしゃいでいた。
 やはり話を聞くよりも、見られる方が嬉しいのだろう。その表情の変化から、それがよく伝わってくる。
 私に関する話をしていたエルメラを止めて、ついでに魔法の理論などは早めに切り上げるように言っておいて良かった。エルメラは割と理論派であるので、語らせたらとても長いのだ。

「そうですね……せっかくですから、派手に一発大爆発でも」
「エルメラ、あまり周りに危害が及ぶ魔法はやめて頂戴」
「ああ、そうですね。すみません」

 私はエルメラが山の方を見つめていたので、急いで彼女に駆け寄って止めることにした。
 この妹は規格外であるため、山くらい本気を出せば吹っ飛ばせそうだ。子供受けはいいだろうが、流石にそんなことをしたら色々と影響があるので、止めざるを得ない。

 いつもならそのくらいのことは、エルメラだってわかるはずなのだが、今日の彼女はやけに上ずっている。
 子供達の前だからだろうか。これは私が逐一傍で指示をした方がいいのかもしれない。

「シャボン玉の魔法とか、どうかしら? 結構、受けが良さそうだけど」
「ああ、その魔法ですか……確かに子供には良さそうです。それでは早速」

 私の指示によって、エルメラは手を振りかざした。
 するとその手の平から、無数のシャボン玉が噴き出て来る。

「シャボン玉!」
「すごーい!」

 予想していた通り、子供達の受けはそれなりに良さそうだった。
 もちろん、山を爆発させた方がそれ以上にはしゃいでくれたとは思うが、こればかりは仕方ない。流石に環境優先だ。

「さてと、これだけではありませんよ?」
「え?」
「わあ!」

 エルメラが指を鳴らすと、無数のシャボン玉が割れ始めた。
 そしてその中から、細かいシャボン玉が溢れ出て来る。それにより、辺り一面が埋め尽くされていく。

「ふふ……」

 それを見ながらエルメラは、笑みを浮かべていた。
 なんというか、とても穏やかな笑みだ。こんな風に笑うエルメラなんて、いつ振りに見ただろうか。まるで子供の頃に戻ったかのようだ。

「久し振りですね。こういう魔法は……」
「こういう魔法? まあ、こんな魔法は滅多に使わないものなのかしら?」
「ええ、実用性がありませんからね。なんというか、こういう平和な魔法も良いものだと、それを思い出しました」
「……そうね」

 エルメラの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 この魔法には、使い道なんてものはない。ただシャボン玉を出すだけの魔法には、意味なんてものはないといえる。
 しかしそれでも、この魔法が素晴らしいものだと思う心を忘れてはならないのだろう。私もそれを思い出していた。