「では、エルメラ嬢はイルティナ嬢のことなんて、なんとも思っていないということですか?」
「……何を言っているのか、私には理解できませんね」
「エルメラ嬢にとって、イルティナ嬢は利用するためだけに存在していると解釈してもよろしいのでしょうか? 自らの栄華のために、王族との婚約をさせる道具として扱っていると」
「そ、そんなことは言っていません。曲解しないでいただきたいのですが……」

 エルメラ嬢は、少し怒っているようだった。
 それは当然だ。ティルリアはとても嫌な聞き方をした。あれは不快にもなるだろう。
 俺が介入するべきだろうか。こういった時のために同席している訳なのだが、中々に判断に困る状況だ。もう少しだけ、成り行きを見てもいいだろうか。

「好きか嫌いかで言えば、どうですか?」
「好きか嫌いか?」
「ええ、中間とかはやめましょう。好きか嫌いかです。どちらかというと、どっちですか?」
「いや、それは……」
「嫌いですか?」
「嫌いではないですが……」
「それでは、好きなんですね?」
「まあ、好きといってもいいのかもしれませんね……ええ、好きですとも」
「やっぱり、そうですか」
「あなたが言わせたのでしょう」

 ティルリアの質問に、エルメラ嬢は少し頬を赤らめながら答えた。
 彼女は、呆れたようにため息をついている。その雰囲気は、悪くない。
 そのことに、俺はとりあえず安心する。これなら、介入する必要はなさそうだ。

「ただ、仮に私がお姉様のことが好き――まあ仮定の話ですから、大好きであるとしましょうか。その場合、なんだというのですか?」
「私も……エルメラ嬢と同じですから」
「同じ?」
「貴族の中には、兄弟を忌み嫌っている人もいます。そういった人達と私は何度も会ってきました。私は王族である訳ですが、後継者争いなどもなく兄弟の関係は良好です」
「……まあ、良いことですね」

 ティルリアは、段々と早口になっていた。
 それに対して、エルメラ嬢は涼しい顔をしている。割と引いても良さそうなのだが、その変化に思う所などはないようだ。

「ダルキスお兄様やツゥーリアお姉様、それからチャルアお兄様にドルギア、私は兄弟のことを皆大切に思っています。大体、兄弟でいがみ合う必要なんてどこにあるのでしょうか。常々疑問に思っているんです。兄弟たるもの、助け合って生きていけば良いではありませんか」
「なるほど……ティルリア様は思っていたよりも、話がわかる人であるようですね」
「そう思っていただけたのなら、何よりです。いや、やはりエルメラ嬢もそういう真っ当な思想を持つ方でしたか」
「ええ、私は歪んだ方々と違って、とても真っ当に生きていますからね。一般的な考えをする普通の人だと思ってもらって構いません」

 エルメラ嬢は、少し笑みを浮かべていた。
 ある程度、ティルリアに心を開いたということだろうか。なんだか、結構乗りが良くなっている気がする。
 その段階で、俺はこの場に同席したことを後悔することになった。この二人の会話をこれから聞き続けなければならない。それは俺にとって、中々に厳しいことだった。