『イルティナ嬢、お会いできて嬉しいです。どうか、ドルギアのことをよろしくお願いしますね』
『は、はい……ティルリア様』
『お義姉様でいいですよ?』
『そ、それではティルリアお義姉様とお呼びします』

 イルティナ嬢とティルリアの対面は、特に問題なく終わった。
 ドルギアは不安がっていたが、流石にそこは大丈夫だった。ティルリアはなんだかんだ言って、そういったことに関しては弁えている。
 問題となるのは、今対面しているエルメラ嬢の方だろう。彼女と話すことをこの妹は楽しみにしていたが、俺としてはとても心配である。

「第二王女のティルリア様が、私と話したいなんて、少し驚きました。魔法について、見識が深いのでしょうか?」
「いいえ、そういう訳ではありません。人並みに使えるとは思いますが、それ程優れている訳ではありません」
「おや、それでは私に一体何の用ですか?」

 ティルリアの言葉に対して、エルメラ嬢は不機嫌そうにしていた。
 イルティナ嬢から話を聞いたドルギア経由で知ったことだが、それは彼女のデフォルトであるらしい。
 それとは対照的に、ティルリアは楽しそうに笑みを浮かべている。エルメラ嬢の態度は、まったく気にしていないようだ。

「エルメラ嬢は……イルティナ嬢のことがお好きですか?」
「……え?」

 ティルリアの質問に、エルメラ嬢は固まっていた。
 それは彼女にしては、珍しい反応であるように思える。ヘレーナ嬢が逃げ出した時なども、そのような反応はしていなかった。

「小耳に挟んだことですが、エルメラ嬢はイルティナ嬢とドルギアの婚約を熱望していたらしいと聞いていたので……姉のために婚約の話を出すなんて、どういう意図があったのかと思ってしまいまして」
「……別にそんなに大した理由があった訳でもありませんよ。ただ単純に、ドルギア殿下が丁度良かったというだけです」
「というと?」
「彼とお姉様が結婚すれば、アーガント伯爵家は安泰です。王族との繋がりなんて、どの貴族も欲しがっていると思いますが」

 エルメラ嬢は、すぐに冷静さを取り戻していた。
 そんな彼女からの返答に、ティルリアは目を細めている。あれは納得していないというような反応だ。

 もちろん、エルメラ嬢が本心を話しているとは、俺も思わない。
 彼女は、何かしらを隠しているだろう。ただそれを探るのは無粋とも考えられる。
 ただ、ティルリアは問い詰めるつもりであるだろう。それがわかっているため、俺はゆっくりとため息をつく。これは少し、場が荒れるかもしれない。