今回の一件で騎士団は大きな打撃を受けたといえる。
 失態に次ぐ失態をエルメラ嬢によって白日の元に晒されて、その名声は地に落ちた。
 騎士団にとって、それは忌むべきことであるだろう。ただ実の所、俺にとっては都合がいいことでもある。

「このまま順当に行けば、俺が騎士団のトップに立てると思います」
「そうか。それは何よりだ。お前が騎士団長になれば、この国は盤石のものになる」
「この国というよりも、私達王族の支配が盤石になるという方が正しいのではないかしら」

 ダルキス兄上とツゥーリア姉上は、俺の言葉にそれぞれ異なる反応をした。
 次期国王筆頭――というよりも、兄弟全員の総意でそう定められている兄上にとって、俺の知らせは朗報であっただろう。心なしか喜んでいるような気がする。
 一方で、姉上の方は冷めている。権力の全てが王族に集中するということを、姉上の方は危惧しているということだろうか。

「まあといっても、最近の騎士団の動向はそれ程良いものではなかったことを考えると、どちらがいいのかはわからないけれど」
「思い上がりも甚だしいものだ。被害者であるイルティナ嬢には悪いが、今回は騎士団にとって良い薬となっただろう」
「お兄様がそのような考えだから、騎士団からも反発が大きかったとも思えてしまいますが」
「それに関しては、騎士団長ロヴァディオの策略だ。俺は騎士団に対して、いつも正当なる評価をしているつもりだ」

 兄上と姉上は、仲が悪いという訳ではない。ただ、こうやって意見が対立するのが常だ。
 それは敢えてやっていることなのかもしれない。姉上はそういった点に関して、バランスを取ることが多い人だ。その可能性はある。
 ただ同じくらい、素の可能性もあるだろう。単純に姉上は、兄上と正反対の性格をしている人であるような気がする。

「……お兄様もお姉様も、大変そうですね?」

 そんな二人のことを眺めていると、後ろから声が聞こえてきた。
 その声の主である妹のティルリアは、議論に参加せずに悠々と紅茶を飲んでいる。

「まあ、兄上も姉上も、この国の中枢を担う人達だからな」
「それはチャルアお兄様も同じではありませんか。違うのは私とドルギアくらいです」
「いや、お前だって重要な役割がある。教会だって、大きな一派の一つだ」
「別に私は、教会で上り詰めたいなどと思っている訳ではありませんけれど」

 ティルリアは、ゆっくりとティーカップを置いた。
 そして、俺の顔を真剣に見つめてくる。

「お兄様、例の件についてはどうなっているのですか?」
「ああ、それについては問題ない。約束は取りつけておいた」
「ありがとうございます。ふふ、楽しみです。エルメラ嬢は、私と仲良くしてくれるでしょうか?」
「……さあな」

 笑顔を浮かべる妹に、俺は何も言えなくなってしまった。
 ティルリアとエルメラ嬢、なんとなく噛み合わせが悪いと俺は思っているのだが、本当に大丈夫なのだろうか。