「大体、お父様はなんとも思わないんですか?」
「……何の話だ?」

 お母様に愚痴を聞いてもらった私は、それだけでは収まらなかったためお父様の元に来ていた。
 私の言葉に、お父様はきょとんとした顔をしている。相も変わらず鈍い人だ。娘の言葉の真意も見抜けないなんて、まだまだである。

「お姉様のことです。大切な娘が、あんな男と仲良くしていた平気なのですか?」
「何を言っているのか、あまりわからないのだが……」
「ドルギア殿下のことです。もっとこう、あるでしょう。私の目が黒い内は、家の娘に手を出すな、とか。どうして、彼をこの屋敷に入れたのですか?」
「その提案をしたのは、お前だと記憶しているが……」
「細かいことを言わないでください」

 お父様は、私の言葉に頭を抱えていた。
 もちろん、ドルギア殿下を守るためにアーガント伯爵家に住まわす提案をしたのは私だ。でもお父様は、それを断ることだってできたのである。
 それなのに許可したということは、お父様に非があると言っても過言ではない。父親であるというのに、娘のことが気にならないのだろうか。

「……そもそも、私がその提案を断っていたとしたら、お前は納得していたのか?」
「いえ、そんな訳ないじゃないですか。ドルギア殿下がヘレーナ嬢に狙われたらどうするんですか? 騎士団の守りなんてあてになりませんし……」
「滅茶苦茶を言っていることを認識してもらえないだろうか?」
「何を今さら。私が滅茶苦茶なのは昔からではありませんか」
「なんだか頭が痛くなってきたな……」

 お父様は、ゆっくりとため息をついた。
 最近は色々と苦労も多いため、ストレスでも溜まっているのだろうか。

「……ドルギア殿下は立派な方だ。彼のような男が娘を愛していることに、私は不満などは抱いていない。大体、仲が良いことはいいことだろう」
「ドルギア殿下なんて、少し顔が整っていて、性格も良く、勤勉でそれなりの武芸と魔法が使え、王族としての自覚もあって、お姉様のことを大切にしてくださるだけではありませんか。別に立派でもなんでもありません」
「エルメラ……お前はきっと疲れているんだ。今日はもう休んだ方がいい」

 お父様は、少し呆れたような表情で私のことを見つめてきた。
 そんな風に見られるようなことなど、言っていないと思うのだが。私が主張しているのは要するに、百人いたら百人がそう思う、そんな事柄である。
 しかしながら、お父様の言う通り疲れているのも確かだ。今日はゆっくりと休むとしよう。明日からもこの日々は続く訳だし。