お姉様を守ること以上に優先するべきことなど、この世には存在しない。
 私にとってそれは生きていく上での命題であり、何よりも大切なことだ。もしも何かと天秤にかけられた時、私はお姉様を迷わず選ぶだろう。
 そして私は、お姉様が守りたいと思うものも守るつもりだ。お姉様の幸せは、誰にも壊させはしない。

 だからこそ、今回はお姉様の大切な人――などと認めるのは誠に遺憾ではあるのだが、その人物であるドルギア殿下を私の庇護下に特別においてあげることにした。
 ヘレーナ嬢が彼を狙ってくる可能性は充分ある。彼女が執着しているのは、あくまでもドルギア殿下だ。お姉様は恋敵である訳だが、彼を手に入れるなら、興味もなくなるかもしれない。

 お姉様を第一として考える私としては、それでも良いようにも思える。
 だが、ドルギア殿下がヘレーナ嬢にさらわれたなどと聞けば、お姉様は深く悲しむことになるだろう。それでは何の意味もない。

 不本意ではあるが、ドルギア殿下もお姉様の一部であると考えるべきだ。
 父や母と同じように思えばいい。いや、それは無理だ。お父様やお母様とあの男が同等などと私の中で考えられる訳もない。
 しかし守らなければならないのだから、優先順位としてはそれくらいにしておかなければ辻褄が合わないというのが現状だ。

「まったく、どうしてあんな人がお姉様の婚約者なのだか……」
「……あなたが、出した話でしょう?」
「そうですが……あの二人がこの屋敷でイチャイチャしているのを見ていると腹が立つのです」

 お姉様とドルギア殿下のお茶会を目撃した私は、お母様の元に来ていた。
 愚痴を述べなければ、やっていられないからだ。どうして私は、あんな光景を見せつけられなければならないのだろうか。お茶会なんて、私とお姉様の数少ない憩いの一時であるというのに。

「あなたもイルティナとイチャイチャすればいいじゃない。素直に甘えたら、きっとイルティナも応えてくれるわよ?」
「いやだって、それはなんだか恥ずかしいではありませんか……」
「最近内心をさらけ出したのでしょう? もう遠慮する必要なんてないじゃない」
「全部明かした訳ではありませんからね……いいえ、仮に全部明かしていたとしても、流石にどんな顔をして甘えればいいのか、わかりません。子供っぽくて情けないじゃないですか」
「……私に膝枕をせがんでおいて、よくそんなことが言えるわね?」

 私の言葉に、お母様は苦笑いを浮かべていた。
 ただ、それとこれとは話が別というものだ。お母様とお姉様とでは関係性が違うのだから。