「イルティナ嬢のことは、騎士団が護衛しよう」

 私が狙われているという事実を受けて、チャルア殿下はそのような言葉を口にした。
 こういった時に警護に臨むのも、騎士団の仕事の一つではある。民間のボディガードなどを雇ってもいいのだが、それならお言葉に甘えるのもいいかもしれない。

「騎士団の護衛なんて、信用できませんね。ヘレーナ嬢にまんまとしてやられた訳ですから」
「手厳しいな……」

 そんなチャルア殿下の言葉を、エルメラは強く否定した。
 彼女は、チャルア殿下を睨みつけている。その視線は鋭い。なんというか、かなりご立腹なようだ。
 それはきっと、私のことを心配してくれているからだろう。私としては、嬉しい限りだ。チャルア殿下からしたら、たまったものではないと思うが。

「お姉様の護衛は、私が行いますから、騎士団の手出しは無用です。私の傍以上に安全な場所なんて、この世にありませんからね」
「まあ、それはそうなのだろうが……」
「騎士団はヘレーナ嬢を探してください。私が以前開発した探索魔法は、騎士団でも運用されているはずです。あれを使えば、見つけるのにそう時間はかからないでしょう」
「よしわかった。それなら騎士団は捜索にあたるとしよう」

 チャルア殿下は、諦めたように手を上げていた。
 エルメラには敵わない。それを体で表しているかのようだ。
 ただ実際の所、エルメラの言っていることは正しい。騎士団がいくら集まっても、きっとエルメラには及ばないだろう。

「ヘレーナ嬢を見つけたら、私に報告してください。彼女はそれなりの使い手であるようですから、私が直々に対処してあげます」
「エルメラ嬢がわざわざ出張らなければならないものなのか?」
「ええ、彼女は私の千分の一くらいの才能を有していると思いますから。騎士団では、中々に手こずると思います。もちろん勝てはするでしょうが、あまり時間をかけられるとこちらは困ります。不安の種はできるだけ早く取り除いておきたいですからね」

 騎士団がエルメラ以外の個人に負けるなんてことは、まずあり得ない。基本的に人数というのは正義だ。エルメラくらいでなければ、それは覆せないだろう。
 ただそれでも、ヘレーナ嬢が逃げ続ける選択をすれば、追い詰めるまでに時間がかかる。その間、私やエルメラは安心できない。それを考慮して、エルメラは提案しているのだろう。

「……さてと、ドルギア殿下、あなたにも来てもらいます」
「僕、ですか? えっと、どこに?」
「アーガント伯爵家に、です。ヘレーナ嬢はあなたのことも狙ってくるかもしれませんからね。お姉様と一緒に、私が守ります」
「なるほど……」
「ドルギア殿下が……」

 エルメラの言葉に、私とドルギア殿下は顔を見合わせた。
 ドルギア殿下と生活をともにする。その事実に、私は不謹慎ながらも心を躍らせるのだった。