「驚かれるのも無理はないことだとは思います。ただこれは、仕方ないことなのです」

 自分に様々な魔法がかかっていたという事実に困惑している私に、エルメラは神妙な面持ちで言葉をかけてきた。
 彼女の表情は、いつになく暗い。それは恐らく、これから話すことがこの妹にとって、明るい話ではないということだろう。

「私という存在は偉大な存在です。しかし偉大だからこその欠点があります。私の才能を巡って、様々な思惑が渦巻いているのです」
「思惑……それは、そうなのでしょうね」
「私を始末しようとする人、手に入れようとする人、その思想は様々です。そういった者達は、時に非道な手段に出る。私と直接狙ったり……私の家族を狙ったり」
「……」

 エルメラの言葉に、私は驚くことになった。自分が狙われているなんて、まったく考えていなかったことだからだ。
 しかし言われてみれば、それは呑気な考えでしかなかったといえるだろう。
 エルメラの才能に対して、陰謀が渦巻くのは当然だ。それに家族の私が関わることなんて、簡単に予測できたことだろう。

「……ありがとう、エルメラ。あなたはずっと私のことを守ってくれていたのね?」
「……守るという程、大袈裟なことはしていません。ただ魔法を作っただけです。お姉様を私の事情に巻き込まないために」
「別に巻き込むことを申し訳ないとか思う必要はないのよ? 私達は家族なのだから」

 エルメラはそういった陰謀に、今までたった一人で立ち向かってきたのだろうか。
 それはきっと、苦しい戦いだったはずだ。しかもその戦いは、これからも終わることなく続いていく。
 私に何ができるかはわからないが、できることならエルメラを支えてあげたい。姉として、私はそう思う。

「……でも、よく考えてみれば私のプライバシーがあなたに知られている訳なのよね?」
「え? ああ、その点は安心してください。何かあった時に見るために記録しているだけですから。今回の場合以外は、見たりしません」
「まあ、それならいいのかしらね? でも例えば、私の任意で切り替えたりできないの?」
「現状は難しいですね。改良したいとは思っているのですが……」
「そういうことなら仕方ないわね。私の身を守るためでもある訳だし、その辺は割り切るしかないかしら」

 エルメラの魔法は、私の身を守るためのものだ。
 今回の時のように冤罪をかけられる可能性もあるため、多少の恥ずかしさは受け入れるべきだろう。
 まあ本人も必要な時以外は見ないと言っている訳だし、気にする必要はないと思っておこう。