「後遺症は残るかもしれませんが、殺してはいないから安心してください」
「それは、安心していいことではないように思えるけれど」
「まあ、どの道彼は処刑されるでしょうから、問題ありませんよ」
「しょ、処刑?」

 突然現れたエルメラは、とても物騒なことを口にした。
 ただ所業を考えると、それはあながち冗談とも言いにくい。もしも私に言ったことが明るみに出れば、そうなるだろう。
 しかし、それを立証するのは難しいように思える。証拠も残っていないし、騎士団側も処刑は避けたいため、謝罪や減給くらいで、済ませるのではないだろうか。

「お姉様には知らせていませんでしたが、お姉様が見たことや聞いたことは記録されているのです」
「え?」
「そのような魔法を私がかけています。彼の暴言の数々も先程まで聞いていました。次期騎士団長筆頭であるチャルア殿下やドルギア殿下と一緒に」

 エルメラが言葉を発した直後、取調室の戸が勢いよく開いた。
 するとそこから、ドルギア殿下とその兄であるチャルア殿下が入ってきた。二人とも、焦ったような顔をしている。

「エ、エルメラ嬢、これは……」
「チャルア殿下、私は先程あなたに見せたものを世間に公開します。騎士団には反省してもらわなければなりませんからね」
「……なるほど」
「それから、下らない侯爵令嬢の妄言に踊らされたということも、世間の皆様方には知っていただかなければなりませんね。まあ、その後に待っている批判は、あなたが治めてください。どうせ今の騎士団長は辞任せざるを得ないでしょうから」
「敵わないな、エルメラ嬢には……」

 エルメラは、私から視線をそらさずにチャルア殿下と話していた。
 彼女の言葉の節々からは、激しい怒りが読み取れる。それは私のために、怒ってくれているということだろうか。

「ドルギア殿下、あなたがお姉様のことをちゃんと見ていないから、こんなことになったということは自覚していただきたいですね」
「それについては、申し訳ありません。僕がついていながら……」
「とはいえ、あなたがお姉様に対して防護魔法をかけていたことは評価します。人を見る目はあるようですね?」
「まあ、少し嫌な予感がしましたから……」

 エルメラの言葉に、私は驚くことになった。
 ドルギア殿下が防護魔法をかけていたなんて、まったく気付いていなかったからだ。
 ただ、彼はあの時瞬時に状況を理解していた。それはヘレーナ嬢が危険人物であるかもしれないと、薄々思っていたからということだったのだろうか。

「まあ、私の防衛魔法の方が今回は優先された訳ですが……」
「防衛魔法?」
「お姉様に危害を加えようとする者に対して、反応する魔法です」
「そんなものが、私に……」

 エルメラの説明に、私はさらに驚くことになった。
 どうやら、私は知らない間に色々な方法で守られていたらしい。その事実に思考が追いつかず、私は困惑するのだった。