「それでは、エルメラ嬢とは話し合えたのですか?」
「ええ、まあまあ、といった感じですが」
「最善とは言えませんか。それでも、良かったです」

 今回の慈善活動にも、ドルギア殿下は訪れていた。
 別にそれも、意図していた訳ではない。そういった場に訪れるのがドルギア殿下の仕事みたいな所もあるので、少し期待してはいたのだが。
 何はともあれ、こうして彼と顔を合わせることができるのは嬉しいことだ。

「なんというか、エルメラも根底から変わったという訳ではないとわかりました。あの子にはあの子なりに悩みとかがあって、それで少し変わってしまったけれど、家族に対する愛情はあって……それがなんだか、嬉しかったんです」
「そうですか……」

 私の言葉に、ドルギア殿下は嬉しそうに笑ってくれた。
 それを見て、私はさらに笑ってしまう。なんというか、色々なことが幸せだ。
 エルメラへのコンプレックスも解消されて、さらにはドルギア殿下と婚約できた。最近はいいこと尽くしだ。

「……すみません。少しよろしいですか?」
「え? 私、ですか?」
「ええ、あなたです」

 幸せを感じている私は、急に話しかけられて少し驚いた。
 声のした方向を向くと、一人の女性がいる。その女性のことは、知らない訳ではない。

「あなたは……バラート侯爵家のヘレーナ嬢、ですよね? 私に、何か用ですか?」
「ええ、少し二人きりでお話したいことがありまして」
「わかりました。えっと……」
「僕は席を外しますよ。イルティナ嬢、それではまた後で」
「え、ええ……」

 ヘレーナ嬢の言葉を受けて、ドルギア殿下は私の肩に一度手を置いてから、その場から去って行った。
 しかし、バラート侯爵家の令嬢が私に何の用なのだろうか。それがよくわからない。
 その不安から、私はドルギア殿下の背中を見つめていた。だから気づかなかった。ヘレーナ嬢が動いたことに。

「……え?」
「大きな声は出さないで頂戴。その方があなたの身のためよ?」
「なっ……」

 ヘレーナ嬢は、私を壁際まで追いつめてきた。
 彼女は壁に手をついており、私が逃げられないようにしている。それらの行動から、明らかな敵意が伝わってきた。
 しかし、彼女に恨まれる理由は思いつかない。そもそも、そこまで関わり合ったことがないので、この状況が理解できない。

「これは忠告よ? あなたなんかが、ドルギア殿下と婚約するなんて、私は認めない」
「それは……」
「今の内に、辞退しなさい。ドルギア殿下と婚約破棄するのよ?そうでなければ、ひどいことになるわ」

 ヘレーナ嬢の言葉に、私は事態の理由を理解した。
 要するに彼女は、ドルギア殿下を狙っていたのだろう。それが貴族としてか、恋慕としてかはわからないが、どちらにしても私を疎んでいることは確かだ。
 しかしそれにしたって、彼女の行動は短絡的過ぎる。実力行使に出ようなんて、そう考えられることではない。つまりヘレーナ嬢は、危険な人物ということだ。