「エルメラ、今日のあなたは変だわ」
「そうでしょうか?」
「変じゃないと思っているなら、それも含めて変よ」

 あまりにもおかしな態度の妹に、私は思わず指摘していた。
 それに対して、エルメラはきょとんとしている。まさか、自覚がないのだろうか。

「よくわからないけれど、私とドルギア殿下の婚約の話は、あなたにとって平静ではいられないものみたいね?」
「……あの、その話はやめにしませんか?」
「あなたが理由をきちんと答えてくれたなら、やめてもいいのだけれど」
「理由という程、大きなものがある訳ではありません。ただ単に、丁度良い婚約者だと思ったから話をもちかけたというだけで……」
「丁度良い婚約者、ね……」

 なんとなくではあるが、今の妹は嘘などはついていないような気がする。とりあえずこの言葉は、真実だと考えるとしよう。裏に何かはあるのだろうが、それはこれから探っていけばいい。
 しかし王族に対して、丁度良い婚約者などというのは、不適切であるような気はする。ただ、エルメラなら許される言葉ではあるだろう。彼女の力は、王族すらも動かせるのだから。

「丁度良いというのは、アーガント伯爵家の当主として迎え入れるのに丁度良いということなのかしら?」
「ええ、そうですね」
「それだけではなさそうね」
「お姉様、私の顔を見ただけでそこまでわかるのですか?」
「ええ、今のあなたはなんというか、滅茶苦茶わかりやすいもの」

 私の言葉に対して、エルメラは表情を変化させていた。
 揺さぶりをかけると、目をそらす。とてもわかりやすい仕草だ。
 いつもの不機嫌そうな顔からは、読み取れないようなことが今ならわかる。端的に言ってしまえば、隙だらけだ。

「……まあ、お姉様の相手として、適切――許してもいいかなと思うくらいには、ドルギア殿下が人格者――まあまあ良い人だなと思って――いや、思っていません」
「ど、どっちなの?」

 エルメラは言葉の所々で心底嫌そうな顔をしていた。
 ドルギア殿下に対して、何か恨みでもあるのだろうか。二人の間に関わりなどは、なかったと記憶しているのだが。

「……要するに、ですね。あのブラッガのような男と二度と当たらないように、私は働きかけた訳です。お父様は人を見る目がありませんからね」
「それは私としてはありがたい話ね。でも、お父様のことをそんなに悪く言う必要は……」
「ありますよ。お父様は人の善性を信じすぎる所があります。良い所でもありますが、悪い所でもあります。貴族としては、どちらかというと悪い所でしょう」

 エルメラのお父様に対する評価は、なんというか愛情が感じられた。
 怒っていながらも、どこか嬉しそうでもある。そんな不思議な言葉に、私はなんとも言えない気持ちになっていた。
 この妹は、私にも両親にもそれ程興味がないとばかり思っていた。しかしそうではなかったのかもしれない。

 となると、エルメラは本当に私のために、ドルギア殿下との婚約を進めてくれたのだろうか。
 そうだとしたら、エルメラには感謝しなければならない。まあ、この妹はそれを素直に受け取ってはくれないだろうが。