「理解力……」
「え、えっと……」

 笑みを浮かべながら顔を上げたエルメラは、よくわからない単語を呟いてきた。
 聡明な妹は、時折私が理解できないようなことを口にすることがある。これもその類ということだろうか。

「流石ですね、お姉様は」
「あ、あれ?」

 私が混乱していると、エルメラはいつもの仏頂面に戻った。
 その急な変化に、私の理解が追いつかない。まだ先程の笑みも噛み砕けていないのに、元に戻らないで欲しい。

「私のことをよく理解しているようで、非常に嬉しく思います……いえ、違います。別に嬉しいとかそういう訳ではありません。まあ、妹のことを姉が理解しているというのは当然のことなのかもしれませんしね。でも、やっぱりお姉様だからこそ、私のことを理解しているといえるのでしょうか? しかしですね、だからといってこの妹がお姉様のことを認めるかというと、それは別の話と言いますか。まあいえ、認めていないとかそういう訳ではありませんよ。というか、私なんかがお姉様のことを認めるとか認めないとか、そういう話をするのがおこがましいと言いますか……」
「ごめんなさい。何も頭に入ってこないわ」

 エルメラはいつもの仏頂面のまま、いつもとは違い饒舌になっていた。
 ただ、早口過ぎて何を言っているのかがわからない。声も小さいし、エルメラのことがどんどんとわからなくなってくる。

「その、話を戻してもいいかしら? 私が聞きたかったことは、私とドルギア殿下の婚約をどうしてあなたが持ち掛けたか、ということなのだけれど」
「え? ああ……まあ、そんなことはどうでも良いのではありませんか?」
「どうでも良くはないわ。私はあなたの真意を知りたいと思っているの」
「真意を知りたい、ですか……いいですね」
「いいですね?」
「あ、なんでもありません」

 今日のエルメラは、明らかに様子がおかしかった。
 何か変なものでも食べたのだろうか。少し心配だ。
 そういえばエルメラは、人の精神に干渉する魔法なども開発していたような気がする。そういった魔法の実験で失敗してしまったのだろうか。そう思うくらい、今日の妹は変だ。

「そうですね……いうなれば、天命でしょうか」
「天命?」
「ある日突然、神様が私に囁きかけたのです。お姉様とドルギア殿下を婚約させた方がいいと……いえ、これは無理がありますね」
「ええ……」
「占いで、人の婚約を決めたらいいことがあるとかは……」
「あなたは、そういったものが嫌いではなかったかしら?」
「確かにそうですね。占いを信じたことはありません。神様の存在は信じていない訳ではありませんが、天啓とかそういったものは鼻で笑うタイプです」

 エルメラは、どこまでもはぐらかそうとしているようだった。
 ただ、そのための言い訳が段々と雑になってきている。
 それもこの妹から考えると、変な話だ。明らかな嘘をついていても、ボロを出したりはしないはずなので、今日のエルメラは変としか言いようがない。