「ドルギア殿下は、エルメアと一体何の話をしていたんですか?」
「え? ああ、それはその……」

 私の質問に、ドルギア殿下はゆっくりと目をそらした。
 エルメラと話したことは、恐らく私には話せないようなことなのだろう。申し訳なさが、その表情からは伝わってくる。
 何か事情があることは、理解できない訳ではない。ただ、私としては少し釈然としないというのが、正直な所だ。

「ドルギア殿下は、エルメラと仲がよろしいんですね?」
「……はい?」
「二人で秘密を抱えて、私のことを蔑ろにして……私、少し怒っています」
「そ、それは……」

 ドルギア殿下は、きっと誰かを気遣って話せないのだろう。そういう人であるということは、よくわかっている。
 ただ、このような形で隠し事をされると、やはりいい気はしない。できれば、話してもらいたい所だ。

「……すみません。イルティナ嬢の気持ちを考慮できていませんでした」
「……」
「ただ、エルメラ嬢と話していたことは、とある人の名誉に関わることです。だから、お話することはできません」

 ドルギア殿下は、私にゆっくりと頭を下げてきた。
 ここまで言っても話せないこととは、一体何なのだろうか。私はそれを少し考える。
 実の所、見当がついていないという訳でもない。私の中ではまったくまとまっていないのだが、状況を考慮すると一つの結論が見えてくる。

「……エルメラが今回の婚約の話を出した。ということですか?」
「え? わ、わかっていたんですか?」
「まあ、お父様の態度やエルメラの態度、それにドルギア殿下の態度から、そうなのかなとは思っていました。でも、わからないんです。どうしてエルメラがそんなことをしたのかが……」
「そうですか……」

 私の言葉に、ドルギア殿下はため息をついた。
 なんというか、彼はとても疲れているように見える。私に隠し事をしているのが、それだけ辛かったということだろうか。

「ドルギア殿下は、理由を知っているのですか?」
「そうですね……知っているという程、確信がある訳ではありません。ですが、先程実際にエルメラ嬢と話してみて、少しだけ見当がついたと言いますか……」
「それは、私には話せないことですよね?」
「……ええ、エルメラ嬢に対して失礼ですからね。好き勝手に気持ちを予測するのは」
「そうですね。わかりました。もう少し自分で考えてみようと思います」

 エルメラのことを必要以上に聞くのは、やめておくことにした。
 結局の所、私は屋敷に帰ってきてからあの子と腹を割って話せていない。どんどんと先送りになったそのことを、そろそろ済ませるべきだろう。そう思ったからだ。