イルティナ嬢との婚約の話が出たのは、突然のことだった。
 彼女がパルキスト伯爵家と色々とあった後、その話が持ち上がってきたのだ。
 父上曰く、それは彼女の妹であるエルメア嬢が持ち掛けた話であるらしい。ただそのことは、秘密にして欲しいそうなのだ。

「ダルキス、お主はどう思う。今回の話について」
「……断る理由はないかと思います。あのエルメラ嬢との繋がりは王家の利益になるかと」
「彼女本人でなくともか?」
「エルメラ嬢は、非常に気難しい性格であると聞いています。本人は婚約に興味がないとか。それはわがままですが、彼女はそれを突き通せます。つまり、彼女本人との婚約は難しいといえるでしょう」
「ふむ……」

 王位の後継者として、こういった話にはダルキス兄上も同席している。
 ツゥーリア姉上もだ。彼女は、父上からも頼りにされている。自分とも兄上とも違う中立な意見を、父上も求めているのだろう。
 もちろん僕も同席している訳だが、実質的に意見を出すことはできない。これは王族として判断することだ。そこに僕の意思が入ることはない。

「ツゥーリア、お主はどうだ?」
「……私も、今回の話には賛成です」
「ほう」
「エルメラ嬢は、優れた女性であるということは言うまでもありませんが、イルティナ嬢も一部では話題です。慈善活動に積極的に参加していますからね。そういった意味では、ドルギアとも相性がいいといえるでしょう」
「なるほど」

 姉上の意見に、父上はゆっくりと頷いた。兄上の意見も含めて、納得しているようだ。
 それに僕は、少しだけ汗をかくことになった。兄上や姉上の意見には、私情が入っているような気がしたからだ。
 数年前チャルア兄上に知られてから、僕の思いは二人の方に伝わっている。弟思いの二人なら、そのことを考えていそうだ。

「まあ、ドルギアもイルティナ嬢には並々ならぬ思いを抱いているようだしな……」
「父上?」

 兄弟だけではなく、父上にも知れ渡っていた。
 そのことに僕は、頭を抱えてしまう。チャルア兄上はお喋りではあるが、まさかそこにまで知らせていたとは驚きである。
 なんというか、父上の言葉で場の空気は一気に和らいだ。こんな風に僕の婚約を決めて、本当にいいのだろうか。

「もちろん、諸々の事情を考慮してのことではあるが、ドルギアにはイルティナ嬢と婚約してもらうとしよう。皆、異論はないな」
「もちろんです、父上」
「良かったわね、ドルギア」
「……はい」

 結局僕の婚約は、非常に緩い雰囲気で決まった。
 もちろん、それは嬉しいことではあるのだが、僕は少しだけ釈然としないのだった。